急騰の背景に、期待インフレ率の上昇と
将来の財政事情悪化の見通し
最初に、長期金利、10年国債の利回りが上昇している原因について、考えることにしよう。
この問題を考える基本は次の(1)式だ。
名目金利=実質金利+期待インフレ率 (1)
ここで実質金利とは、物価上昇率がゼロである世界で実現する利子率のことだ。期待インフレ率とは、国債償還までの期間に、物価がどの程度上昇するかに関する人々の予想値だ。
したがって名目金利が上昇するのは、実質金利が上昇するか、期待インフレ率が上昇するか、あるいはその両方が生じていることによる。
ところが、上で定義した実質金利や期待インフレ率は、直接には観察できない変数だ。したがって、さまざまなデータを分析して推計する必要がある。
名目金利上昇の原因として、まず考えられるのは、期待インフレ率の上昇だ。
日本の消費者物価(生鮮食料品を除く総合)の上昇率は、長期にわたって0%に近い状態が続いた。ところが22年から急上昇し、22年4月以降、対前年同月比が2%を超える状況が続いており、24年12月以降は3%を上回る月が続いている。
現実のインフレ率が従来より高まったことに影響されて、将来についての人々の期待インフレ率が高まっている可能性が十分ある。
名目金利を上昇させている原因として第二に考えられるのは、将来の財政事情が悪化し、国債の発行に関する諸条件が現在より悪化すると考えられることだ。これは(1)式における実質金利を上昇させる。
財政事情悪化の原因には、さまざまなものがある。最も重要なのは、人口高齢化の進展によって社会保障関係費が増え、他方で若年者人口が減るために費用負担者が減ることだ。また、防衛費増額の影響も大きいだろう。
国債発行額が増えれば、国債の消化が難しくなり、価格が下落する。つまり利回りが上昇する。そうなると、新発債の利回りが上昇して国債費が増加し、財政状態はさらに悪化する。
こうした問題は以前から存在していたが、7月の参議院選挙では、減税や積極財政を主張する新興政党が議席を伸ばし多党化現象が進んだ。ばらまき的な支出が増える懸念が高まったことから、将来の財政事情についての見通しが悪化している可能性がある。
今年7月中旬から下旬にかけて長期金利の上昇が顕著だったことは、そうした見方を支持するものだ。
政策金利引き上げが必要な事態か?
財政の将来の姿、変えるのは困難
では、こうした事態に対応してどう対処すべきか?
10年国債利回りが現状のように高くなる以前の状況では、政策金利(短期金利)と10年国債利回りとの間の関係は、正常なイールドカーブ(償還期間に応じて形成される利回り曲線)に合致するようなものだったとすると、10年国債利回りが上昇して政策金利が据え置かれれば、両者の関係は、正常なイールドカーブに従うものではなくなる。
その結果、さまざまな支障が生じる可能性がある。それを避けるためには、まずバラマキ的な政策の見直しなど、財政規律の引き締めが必要だ。それが成功すれば、長期金利を引き下げることが可能かもしれない。
ただし、財政の将来の姿を大きく変えることは、高齢化が今後も進むことなどを考えると現実には極めて困難な課題であることも事実だ。
したがって、当面は10年債の現状の利回りを所与とすることにすれば、正常なイールドカーブにするには、政策金利を引き上げざるを得ないことになる。