ここでは、まだセラピーを受けるほどでもない、という人のために、場数を踏む以外で緊張をコントロールする私なりの方法を少し紹介しておきます。

緊張で冷静さを失いそうなときに
思い出すべき「当たり前の事実」

 とにかく人前で話した経験が少ないと、自分自身に意識が集中してしまいます。ずっと自分のことを考えてしまっているのです。「うまく話せるかな」「大事なことを忘れていないかな」「ちゃんと説明できているかな」――。何かを話すよう急かされているように感じ、冷静さを失って、それがさらなる緊張を呼び起こします。

 そんなときには、あえて自分のことを考えるのをやめることです。自分のことは棚に上げて、聞く人のことを考えるのです。年齢や性別など、どんな属性を持った人たちなのか、自分とどんな共通の理解がありそうな人たちなのか、です。緊張するときは、あたかも自分の意識は体から離脱して聞き手側にいるようにすることです。

 同時に、自分を冷めた目で見つめる、「あ、自分は緊張しているな」とあえて味わうように自覚するのがよいと思います。つまり、話をしながらも、自身を客観視する視点を持つことです。

 そのためにはまず、あえてゆっくり話すことが大切です。人は緊張するとたいてい話すスピードが速くなります。そして話すスピードが上がると、気持ちが焦ってしまい、さらに緊張の度合いも増すという悪循環に陥りがちです。そこで、ゆっくり話すことを意識してみましょう。緊張すればするほど、ゆっくりと低い声で話すのです。自然に気持ちが落ち着いてきますし、聞き手もあなたの話を理解しやすくなります。

 もしそれで失敗したとしても、ほとんどの場合、何か人生を左右するような重大な結果を招くことはありません。伝えることに失敗しても、別に死なないのです。失敗したとしても命を失うわけではないし、結局「許される」ということに気付くと思います。安心して場数をこなしてください。