新たな技術を習得する上で
質より量を重視するワケ

 ということで場数を踏むことが重要だと書いてきましたが、「場数」とは文字通り、その「数」がものを言います。「人に伝わる話し方を体得するための努力」の中身は、「質」です。ただ、その次に必要になるのは、この努力の「量」です。

 今の時代は、全体的に効率を求める傾向が強く、「量よりも質が大事だ」という声をよく耳にします。しかし私はどちらかというと逆で、「量をこなさなければ身に付かないものが確実にある」と思っています。

 新たな技術を習得する過程というのは、真っ暗で何も見えない部屋の中を手探りで歩き回るようなものです。真っ暗な中でとにかく歩き回って、壁に当たったら「ああ、ここが壁だな」と分かる。さらに進んで、別の壁に当たったら、「ああ、ここも壁だな」と分かる。

「量をこなす」というのは、すなわち「暗闇の中を歩き回る」行為です。それによって初めて部屋の形や広さを体感し、そこがどんな部屋なのか分かるのです。

 何らかの分野で成功を収めている人が、「量ではなく質で勝負をしろ」と言ったり書いたりしているのを目にします。しかし、彼らも実は相当な量をこなした結果、質を手に入れている場合が多いと思います。また、彼らにはいくらかの才能もあって、最初から部屋の明かりがほんのりともっているような状態だったのかもしれません。

何度も失敗するのが当たり前
過度な緊張を避ける対応策とは

 人前で話をするとき、全く緊張をしないという人は少ないでしょう。人前で話すときは、どうしても緊張してしまいます。頭が真っ白になり、何を話したらいいか分からなくなってしまうこともあるでしょう。

 緊張への私の対応策は、毎回「失敗する」と割り切って場数を踏んで慣れていくというものです。人前で話すのを「もうイヤ」と思うぐらい繰り返して、ようやく過度に緊張しないようになりました。大勢を前にしてスピーチするときは、「最低でも最初の3~5回は失敗しなければならない」と自分に言い聞かせるぐらいの長期的な覚悟で臨んでください。

 もちろん、何度やっても緊張してしまう人もいるでしょう。場数がすべてを解決するわけではありません。もし自分が深刻なあがり症だと感じるのであれば、そういう人のためのトレーニングやセラピーもあるので利用を考えるのもよいでしょう。医学的な対処が必要な場合もあります。