私も「伝える力」が元から高かったわけではありません。ニュースの現場やYouTubeなど、「伝えなければならない」環境に長年にわたって身を置き続けてきた結果、その力が高まったにすぎません。

「伝える」スキルも他の専門性の習得と同じで、意思の力ではなく環境要因が大きく左右するのです。

会議やプレゼンだけじゃない
伝える技術を磨ける環境

 例えば、会社で普段から仕事や会議を仕切っているような人が、マンションの組合の理事長を務めたりすると、「来月の修繕工事はこの業者で進めたいと思います。スケジュールはこのようになっていてコストも含めておおむね適切だと判断しました。みなさんよろしいですか?」などとスムーズに理事会が進みます。

 それは、この理事長が、普段、会社の中でプロジェクト管理などの部署にいて様々な案件をこなしてきた経験があるからです。彼が普段置かれている環境のおかげで、物事を円滑に進める役割を自然にこなせているだけです。

 あくまで環境が人をつくるのです。であれば、伝える力を向上させるためには、「誰かに何かを伝えなければならない環境」に自分を置くことが、そもそも基本になります。

 毎日、社長に定例報告を求められている人であれば、経営者に対する伝え方はうまくなるでしょう。オーナー企業の社長は明確で端的な報告を求めることも多く、そういう力が鍛えられるかもしれません。

 伝える技術を本当に磨きたい人は、経験を重ねられる環境、伝え方がうまい人たちとつながれる環境、フィードバックを受けられる環境に身を置いてください。会社員であれば、社内会議や取引先へのプレゼン、顧客との商談、お子さんがいらっしゃる場合はPTAの集まりなど、実践の場はいろいろとあります。それだけでは足りないという人は、読書会や勉強会、近所のサークルなどに自主的に参加してみるといいでしょう。

 そうした場数を踏めば踏むほど、経験とフィードバックを蓄積できます。自分1人で練習したり、自分の姿を客観的に見たりするだけでなく、「つまらない」「話が見えない」「結論が分からない」など、定期的に他人からのフィードバックを受けることが重要です。

「伝える」という行為には常に相手が関わっており、1人の努力や工夫だけでは完結しないからです。