成功する人と、そうでない人は何が違うのか。多くの人が関心を持つこのテーマに、「GRIT(やり抜く力)」という新しいキーワードを打ち立て、全米で大きく注目されたのが、ペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース教授。そんな彼女の長年の研究成果をまとめた書籍は瞬く間に全米でベストセラーになり、30カ国以上で刊行が決まった。その日本版が『やり抜く力──人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』だ。「やり抜く力」とは何か。どうすれば「やり抜く力」を高められるのか。子どもの「やり抜く力」を高めるには?(文/上阪徹)

【世界の成功者が明かす】「一流になる人」と「二流で終わる人」の決定的な差Photo: Adobe Stock

「成果」を出すにはスキルだけでは不十分

 アメリカの教育界で近年、大きな注目を浴びている「グリット(やり抜く力)」。その研究の第一人者と呼ばれるペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース教授が、研究成果を1冊にまとめた集大成が、30万部を突破している『やり抜く力──人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』だ。

 才能だけでは成功できない、と本書は導入で語るが、やがてそれは「達成」というキーワードとともに深掘りされていく。

「才能」とは、努力によってスキルが上達する速さのこと。いっぽう「達成」は、習得したスキルを活用することによって表れる成果のこと。(P.70)

 ここから、シンプルな方程式が導き出される。

努力と才能の「達成の方程式」努力と才能の「達成の方程式」(『やり抜く力』P.70より)

 才能×努力=スキル
 スキル×努力=達成

 才能すなわち「スキルが上達する速さ」はたしかに重要だが、両方の式を見ればわかる通り、「努力」は両方に入っている。重要なのは、やはり「努力」なのだ。

 そして研究のための数々の取材エピソードをベースに、著者は早々とその結論を書き綴る。

 私の計算がほぼ正しければ、才能が人の2倍あっても人の半分しか努力しない人は、たとえスキルの面では互角であろうと、長期間の成果を比較した場合には、努力家タイプの人に圧倒的な差をつけられてしまうだろう。(P.77)

 努力をしなければ、もっと上達するはずのスキルもそこで頭打ちになるからだ。努力によってこそスキルは生かされ、さまざまな「成果」を生み出すことにつながる。スキルがなければ、成果は生み出せないからだ。

「劣っていることが強みになる」深い理由

 この記事を書いている私には、『成功者3000人の言葉』(三笠書房/知的生きかた文庫)という著書がある。これは、多くの成功者に会って、ぜひ多くの人に知ってもらいたいと感じたエピソードをまとめた1冊だ。

 実はその冒頭は「そもそも世の中は理不尽で不平等である」から始まる。これは、多くの成功者に取材した私の印象に基づいている。彼らは、大変な努力をしていても、大した苦労などと思っていなかったのである。とんでもないことを、さらりとやってしまうのだ。

 似たような話が本書『やり抜く力』にも出てくる。実は私も昔からの大ファンなのだが、「現代アメリカ文学における偉大な語り手」ジョン・アーヴィングの言葉だ。

「ほとんどの作品は、最初から最後まで書き直した。自分の才能のなさを骨身にしみて感じた」(P.72)

 しかも驚くべきことに、アーヴィングは重度の読字障害だった。昔から読み書きが苦手だったのだ。だから、身をもって学んだのだという。

「なにかを本当にうまくなりたいと思ったら、自分の能力以上に背伸びをする必要がある。僕の場合は、人の倍の注意力が必要だとわかった。でも、そのうちわかってきたんだ。同じことを何度も繰り返すうちに、以前はできそうになかったことが、当たり前のようにできるようになる。だがそれは、一朝一夕にはいかない」(P.73)

 ふつうの人よりも読み書きの能力が劣っていることも、アーヴィングは「むしろ強みになった」と言っていたという。日々の努力の積み重ねによって、彼は文学の大家となったのだ。そして、何百万人もの人びとを感動させたのである。だが、それは、途方もないほどの努力だったはずだ。

 しかし、アーヴィングにとっては、そんな努力も、私が取材した多くの成功者たちと同じように、大した苦労とは思っていなかったようである。

 そして、それを可能にしていたのが、「やり抜く力」だったのだ。

あなたの「やり抜く力」がわかる計測法

 極めて興味深いことに、本書ではこの「やり抜く力」が測定できるようになっている。あなたには「やり抜く力」がどれだけあるのか、「情熱」と「粘り強さ」がわかるテストがつけられているのである。米国陸軍士官学校での研究用に開発された「グリット・スケール」だ。

 難しいものではない。10の文章があり、右側の5つのボックスのうち、自分に当てはまると思った数字(1~5)にマルをつける。こうして「グリット・スコア」を算出する。最高スコアは5(やり抜く力がきわめて強い)、最低スコアは1(やり抜く力がきわめて弱い)。アメリカ人の成人のスコア分布も掲載されている。

 留意すべき点は、いま算出したグリット・スコアには、「現在のあなたが自分のことをどう思っているか」が反映されているということだ。また、もっと若いときと現在では、あなたの「やり抜く力」の強さは異なるかもしれない。同様に、何年かたってもう一度回答したら、ちがうスコアが出る場合もある。(P.82)

「やり抜く力」は変化するという。つまり、何歳になっても、伸ばすことができるということだ。

 そしてもう一つ興味深いのは、この「グリット・スケール」で、「情熱」と「粘り強さ」を別々に算出できること。多くの人が、「粘り強さ」のスコアのほうが、「情熱」のスコアを上回っているという。

 必死に努力したり、挫折から立ち直ったりすることよりも、長いあいだわき目もふらずに、同じ目標にずっと集中し続けるほうがはるかに大変なのだ。(P.85)

「情熱」と「粘り強さ」には、大きなモチベーションエンジンが必要だということになるのである。

 では、「やり抜く力」は、どうすれば伸ばせるのか。そこには4つのステップがあった。
(次回に続く)

(本記事は『やり抜く力──人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

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