アニメはアニプレックス、実写映画はソニーピクチャーズというのであれば、その役割分担は分かりやすいかもしれない。しかし、『国宝』はソニーピクチャーズではなく、アニプレックスの作品だ。こうしたビジネスドメインの浸食と重複はいかにもソニーらしいと言える。

 かつてDVDレコーダー黎明期に、ビデオ事業部門だけでなく、PS事業部門というPlayStationの技術資産をエレクトロニクスで活用する事業部門がPSXというDVDレコーダーを作ったように、ソニーでは自分の組織の事業領域かどうかを気にせず、やりたい人がやりたいビジネスをするという自由闊達な仕事の仕方をしてきた。

ディズニーと決定的に違う
「ソニーらしさ」が発揮された映画製作

 アニプレックスとソニーピクチャーズも同様の関係なのかもしれない。ソニーピクチャーズはハリウッドで培ったノウハウで洋画のヒット作品を生み出し、アニプレックスは日本文化を活用した邦画でヒット作品を作る。社内の組織の分業もそれほど気にしないで、やりたい人たちがやりたいことをする。これこそまさにソニーらしさの神髄かもしれない。

 ただし、単に過去のソニーのハードウエアビジネスのやり方をトレースするだけではない。エンタテインメント事業の特性に合わせてビジネスの戦略もアップグレードしている。映画やアニメといったエンタテインメント作品は製作費が巨額になることが多い一方で、作品の当たり外れという不確実性が極めて高い。ソニーはコロンビア映画を買収して、ソニーピクチャーズにしてから幾度も浮き沈みを経験し、エンタテインメント事業のハイリスクハイリターンの事業特性を学んできた。そうした中で、作品を丸抱えするのではなく、いくつものステークホルダーとビジネスを分散所有して利益もリスクも分散するポートフォリオマネジメントを行っている。

 それに対して、ディズニーは映画ビジネスを丸抱えする傾向にある。ディズニー作品はオリジナル原作のIP(知的所有権)を活用して、自社で映画を作成し、ネット配信も自社のプラットフォームで行うような垂直統合的なビジネスを志向している。

 一方で、ソニーは『鬼滅の刃』のように自社は製作会社として参画、自社系列のソニーPCLがアニメ編集を手がけ、テーマ曲はソニーミュージックが担当するが、集英社原作のIPを用いて、テレビはフジテレビで放送されたり、映画では東宝が配給したりしている。動画配信はNetflixを始め様々なプラットフォームで配信している。

 ディズニーのような囲い込みビジネスではなく、よりオープンなプラットフォームの中で製作に特化して、その他の部分ではリスクを分散する戦略を用いている。もちろん、『国宝』で各社がおよび腰だった製作幹事に名乗り出るなど、リスクをとるところではしっかりリスクを取った上で、そのリスクを分散するマネジメントを上手く活用しているのである。