南座映画『国宝』のクライマックスシーンが撮影された南座(東山区)

任侠(にんきょう)一門に生まれた主人公の喜久雄が、歌舞伎の世界で才能を開花させ、人間国宝に上り詰めるまでの半生を描いた映画『国宝』。興行収入が133億円を突破し、連日話題を集めていますが、じつはそのロケ地、京都に複数あります。今回は、映画『国宝』の聖地巡礼へとご案内しましょう。(らくたび、ダイヤモンド・ライフ編集部)

『国宝』を堪能できる聖地巡礼in京都

 映画『国宝』(李相日監督)、もうご覧になりましたか? 上映時間175分が修行のように思えて躊躇(ちゅうちょ)していた筆者も、ついに映画館へ! 上映開始早々スクリーンに引き付けられ、あっという間の3時間でした。キャッチコピー「その才能が、血筋を凌駕する」は、ストーリーの重要なキーワード。未見の方は、ぜひ京都でご覧になってください。6月6日の公開から3カ月、新京極のMOVIX京都などでロングラン上映中です。興行収入は133億円を超え、来年3月に行われる第98回米アカデミー賞「国際長編映画賞」部門の日本代表作品にも選出され、北米公開も決まりました(以下、敬称略)。

 吉沢亮演じる喜久雄は長崎の任侠の家に生まれ、父を目の前で惨殺されるも、その類いまれなる才能を認められて入門。一方、横浜流星演じる俊介は名門の血を継ぐ御曹司。この対照的な二人を見つめるのが、俊介の父役である渡辺謙と母役で梨園出身の寺島しのぶとなります。

 そしてもう一人、芸の力だけで当代一の歌舞伎役者に上り詰めた田中泯演じる万菊。椅子に腰かけた姿にもうならされる“体幹力”は、「人間国宝」坂東玉三郎をほうふつとさせる役どころでもあり、まさに一見の価値があります。本作で歌舞伎の演技指導を行い、自身も歌舞伎役者として出演した四代目中村鴈治郎。人間国宝である四代目坂田藤十郎を父に持つ、上方歌舞伎の第一人者です。

 映画ならではと思えるのが、思わず息をのむほどあでやかな舞台を「観客席から観(み)る」視点がある一方、舞台裏の様子や緞帳(どんちょう)が開いて満員の観客がこちらを「観ている」という「役者の視点」も織り交ぜられていること。舞台に向かう緊張感やいままさに幕が上がる高揚感も体感できます。50年の時を駆け、頂点へと上っていく「喜久ちゃん」に伴走しながら、波瀾(はらん)万丈の哀しみや喜びを共有することで、これまで見たことのない鮮やかな景色を感じさせてもらえた気がします。

  『曽根崎心中』『道成寺』『鷺娘』など、有名演目のハイライトシーンを見ることができるのも、この作品が見る者をひきつけてやまない理由の一つかもしれません。兄弟のように育った京劇役者を描く『さらば、わが愛  覇王別姫』と、醸し出す雰囲気が似ているという意見もありました。長く語り継がれる名作となりそうです。

  「血脈(けちみゃく)」と芸の相克、「人間国宝」や「上方歌舞伎」など、京都にあふれる要素に満ちた本作、関西エリア中心のロケ地の中でも、京都には“聖地”が数多くあります。二倍も三倍も『国宝』を堪能できる聖地巡礼の散歩をご案内いたしましょう。まず向かうのは、鴨川のほとりのあの建物です。

鬼瓦先斗町歌舞練場の屋根の上で見守る蘭陵王の鬼瓦。先斗町が鴨川と高瀬川の「堤」であることにちなんで、両脇には「鼓」を抱え、先斗町の繁栄への願いを込めているとも言われている