インドネシア政府がBYDを「推す」理由
ニッケル活用、韓国ヒュンダイ&LGも
ここで今一度、BYDとインドネシアの関係について整理したい。BYDは西ジャワ州スバンの工場団地に10億ドル(1500億円弱)を投じ、新規雇用1.8万人規模の工場を26年初頭に開業すべく建設を進めている。
これにはインドネシア政府の思惑も強く働いている。インドネシアはバッテリーの原料となるニッケルで世界最大の埋蔵量を誇る。EV産業を盛り上げて、バッテリー製造から車両組み立てを含めた国内完結のサプライチェーンを作り上げたい考えがあるのだ。
同政府はEVの年間生産60万台を目標に、ニッケル輸出を原則禁止にして国内処理を義務付ける一方、EVメーカーの現地製造には税制優遇などを図ってきた。さらに現地生産化を加速すべく、完成車輸入の優遇は25年末で打ち切る方針で、BYDの工場の26年初の開業はこれに合わせたものだ。
バッテリー製造は、中国CATL系企業とインドネシア国営会社の合弁で26年末の創業を見込んでいる。なお、韓国勢のヒュンダイとLGの合弁会社が西ジャワ州で電池工場を24年に稼働するなど、インドネシアのバッテリー生産はこの世の春を迎えつつある。
トランプ関税の影響は?
中国企業の参入促す「新しい風」に!
さらにトランプ関税ショックが、現地生産化を促している。中国から米国への輸出関税が30%を超えるようになったので、米国への輸出関税が19%のインドネシアに拠点を構える中国企業が増えているのだ。ロイター通信の現地報道によると、特にBYDが工場建設中のスバンの工業団地には問い合わせが殺到し、用地価格は前年比15~25%上昇、倉庫やオフィス賃料も急騰しているという。
インドネシア政府統計によると、25年上半期に中国・香港からの投資が82億ドル(前期比6.5%増)に増えたことも、この動きを裏付けている。筆者が取材したところ、「全てが自動車関連とは言えないが、BYD関連の部品メーカーがかなりの数、参入していることは考えられる」(日系自動車メーカーの駐在員)という。