BYD工場建設現場で起きた珍事
中国人ファーストVS地元の反社会的勢力

 中国EVメーカーによる巨額投資は近年、受け入れ国側からの評判が芳しくない。例えばタイでは、「ゼロ・バーツ工場」と批判されている(バーツはタイ通貨の単位)。工場従業員は全て中国人、部材もほとんど全て中国からの輸入品で、周囲には中国レストランが立ち並び、チャイナタウンと化したからだ。地元住民の間では、「これでは全く地域にお金が落ちない」と不満が高まっているという。

 こうした、いわば中国人ファーストの商慣行は、インドネシアでも対立を引き起こしている。BYDが建設中の工場敷地に、地元の反社会的勢力「プレマン」が居座り、“ショバ代”を要求する事件が発生したのだ。インドネシア議員が明らかにしたところによると、プレマンは土地周辺の“仲介料”を要求し、工事の妨害などをした。一方のBYD側は、「現地の施工会社を通じて自力で収束させた」と説明している。

 今回のような事案は、イスラム教のレバラン(断食付き明け大祭)に合わせた「ボーナス名目」で現金や雇用枠を要求する、工事現場で常態化しているやり方でもある。しかしBYDに関しては、「インドネシアの財閥と合弁を組まない、完全独資であることが反社会的勢力の反感を買った」との指摘もある。BYDが26年初頭の工場開業を本気で目指すなら、より地元との関係構築を求められるはずだ。

 雇用創出に躍起になっているインドネシア政府からすると、外資の製造業による投資、事業拡大は、喉から手が出るほど欲しいだろう。ある政府系機関の関係者は、「日系自動車メーカーは2010年代前半、インドネシアの経済成長が著しい時期に、年産200万台規模の設備投資を完了した。その後がない。新しい雇用を生み出すには、中国系EVの投資を引っ張り込むしかない」と吐露した。

 こうした状況下、中国資本に極端な優遇政策が強化される可能性は高く、日本車のシェアが削られる懸念すらある。東南アジアにおける自動車業界の地殻変動には、今後も目が離せない。