
愛する子どもや大切なものを失ったとき、人は立ち直れないほどの悲しみに沈む。だが、2000年以上前の哲学者たちは、最悪の事態でも揺るがない「無敵な心」のつくり方を知っていた。悲しみや不安を軽くするストア哲学の知恵とは?※本稿は、ウィリアム・B・アーヴァイン著、竹内和世訳『ストイシズム:何事にも動じない「無敵の心」のつくり方』(白揚社)の一部を抜粋・編集したものです。
人間はなぜ最悪を想像して
行動しているのか?
思慮深い人ならだれでも、自分の身の上に降りかかるかもしれない悪いことがらについて、たびたび考えることだろう。
第1の理由はもちろん、それが起こるのを防ぐためである。たとえば家に泥棒が入る事態を考えて、そうならないようにいろいろ手を打ったり、病気にかかる事態を考えて、予防的措置をとったりもするだろう。
だがいくら必死になって悪いことが起こらないように手を打っても、すべてを防ぐことは絶対にできない。いずれにせよ起こるときには起こるのだ。
そこでルキウス・アンナエウス・セネカ(編集部注/ローマ帝国の政治家、哲学者、詩人。ストア派哲学者であるとともに、ラテン文学の白銀期に多くの著作を残した)は、第2の理由を指摘する。自分の身に起こるかもしれない悪いことを予期すれば、現実に起きたときに受ける衝撃が少なくなるというのである。
「前もって災難の訪れを予期していた人は、現実にそれがやって来たとき、その力をそぐことができる」。不幸が最も重くのしかかるのは、「良い運命しか期待しない人びと」なのだ。
エピクテトス(編集部注/古代哲学者。奴隷の身でストア哲学を学び、解放され自由人となると、哲学の学校を開いた)もまたこの忠告を繰り返す。「どこにあっても、どんなものも、永久に続かないことを心にとどめるべきである」。