もし私たちがこれに気づかず、自分たちが大事にしているものをずっと楽しめると考えるなら、それが奪われたときには大きな嘆きが待っているだろう。

 悪いことを予想する理由としては、いまあげたふたつの他に第3の、ほぼ間違いなく最も重要な理由がある。

 人間が不幸になるのはだいたいにおいて、あくなき欲望を持っているためである。

 望むものを手に入れようと熱心に頑張ったあと、人は決まってその対象に興味を失う。いったん欲望を満たしたあとは、満足を感じるよりもいささか「飽き」を感じてしまい、そのため引き続き、さらに大きな新しい欲望を形成するようになるのだ。

ブランドものや理想のキャリアを
手にしてもすぐ飽きてしまう

 心理学者のシェーン・フレデリックとジョージ・ローウェンスタインは、この現象に名前をつけた。「快楽適応」というのがそれである。

 このプロセスがどんなものかは、宝くじに当たった人びとについての追跡調査が教えてくれる。宝くじに当たれば、たいていの場合、自分にとっての夢の生活を送ることができる。

 だが実際には、初期の興奮がすぎると、彼らが感じる幸せは前と同じような程度に落ち着く。彼らは新しいフェラーリと大邸宅に慣れっこになってしまう――かつては錆びだらけのピックアップトラックと狭苦しいアパートを当たり前だと思っていたように。

 これほどドラマティックでない「快楽適応」の形は、消費財を購入する際に見受けられる。当初は、買ったばかりの大画面のテレビとか、上等な皮のハンドバッグをうれしがるものの、しばらくするとそれらをばかにするようになり、さらに大きな画面のテレビやもっとゴージャスなハンドバッグを欲しがる。

 それだけではない。キャリアについても快楽適応がある。

 かつてはある職業につくことを夢見て、そのために大学で一生懸命勉強し、ひょっとしたら大学院にも行って、立派なキャリアへの道につく。それから何年もかけて、そのキャリア・ゴールに向かう道を、ゆっくりと着実に進んでいったあげく、ようやく夢の職業に到着し、喜びにひたるわけだ。