不法移民の大量強制送還、各種の外交問題、インフレ抑制や減税をめぐる経済政策など、第2次トランプ政権が取り組もうとしている課題はさまざまである。そうしたなかで、文化戦争の右からの強力な巻き返しと、テクノロジーの進歩への全面的なバックアップが、第2次トランプ政権の特徴として浮かび上がっている。
技術革新の力を全肯定する
テクノ=オプティミスト
テクノロジーの進歩をつうじて神の御業を顕現させることを目論むピーター・ティール(編集部注/ピーター・アンドレアス・ティール。起業家、投資家。ペイパル共同創業者。テックビジネスの起業家たちのなかで、トランプたちともっとも蜜月関係にあり、右派再編に大きな影響を及ぼしている)には密教的側面があるが、シリコンバレーにはテクノロジーへの無限の信頼を思想のかたちに昇華させようとしている者たちが他にもいる。
ウェブブラウザのネットスケープを開発し、今日ではベン・ホロウィッツ(編集部注/事業家、投資家。「トランプ政権下でテック業界は活性化する」とし、共和党支持を表明)とともに、ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)を率いているマーク・アンドリーセン(編集部注/ブラウザソフト「ネットスケープ」を開発したプログラマー、投資家。「AIの進歩を阻むのは一種の殺人」と訴えている)がそうである。
アンドリーセンは2023年10月、「テクノ=オプティミスト宣言(The Techno-Optimis Manifesto)」をオンライン上で発表した(注1)。
アンドリーセンは未来にたいする悲観的な声に抗い、テクノロジーによってもたらされる、より優れた生き方あるいは在り方を言祝ぐメッセージを発している。
「テクノ=オプティミスト宣言」の冒頭で、アンドリーセンは「嘘」と「真実」という小見出しを立てて、ふたつの語りを対置させている。
「嘘」とは、テクノロジーは人びとから仕事を奪い、不平等を増大させるといった、未来にたいするペシミスティックな語りである。それに相対する「真実」が、アンドリーセン自身が採るテクノ=オプティミストの立場である。