
英国の植民地だったアメリカが、独立を宣言した1776年。「すべての人間は平等」と高らかに謳ったが、その裏には綺麗事では済まない現実があった。初代から12代目までの大統領のうち、10人が奴隷所有者であったという事実が示す、アメリカ建国における負の歴史とは?※本稿は、井上弘貴『アメリカの新右翼:トランプを生み出した思想家たち』(新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。
アメリカ誕生の年を
1776年と認めない勢力
トランプがホワイトハウスを去り、新旧大統領間での引継ぎが直接なされぬままバイデンの大統領就任式がおこなわれた2日前――この2021年1月18日はマーティン・ルーサー・キング牧師を記念する祝日だった――ある報告書がトランプ大統領に提出された。
その報告書は1776委員会(The 1776 Commission)がとりまとめた『1776年レポート』である(注1)。
1776年は、アメリカ史を多少なりとも勉強した者であれば、馴染みのある年号である。アメリカ独立宣言が出された年であり、その時点で13の植民地は英国軍との交戦の只中にあったとはいえ、のちに制定される合衆国憲法のもとで連邦国家として姿をあらわすアメリカの誕生の年として世界史に刻まれている。
2020年11月2日、大統領選挙の前日に大統領令によって設置されたこの1776委員会は、トランプ大統領の諮問を受け、アメリカにおける「愛国教育」のあり方を検討することを目的とするものだった。
その1776委員会と『1776年レポート』が、主たる敵として想定していたのが「1619プロジェクト(The 1619 Project)」である。