テック右派の巨人たちが
総合格闘技を習うワケ

 アンドリーセンは「テクノ=オプティミスト宣言」のなかで、われわれは必ずしも左派であったり、右派であったりするわけではないと書いている。自分たちにとっての敵は、停滞であると謳っている。

 とはいえ、SDGsや持続可能性や予防原則、あるいは存亡リスクといった――アンドリーセンに言わせれば――テクノロジーや生そのものの価値を貶めてきた考え方の多くが共産主義から生じてきたと述べ、かれ自身、右派的な価値を積極的に肯定していることは確かである。

 アンドリーセンは別のネット上の投稿で、ザッカーバーグやマスクもトレーニングを受けている総合格闘技のMMA(Mixed Martial Arts)をとりあげている。

 古代ギリシアの兵士の訓練の一環だったパンクラチオンの現代版であるが、アンドリーセンによれば、単に格闘スキルだけでなく、規律、感情のコントロール、他者にたいする尊敬、責任をめぐる深い理解をもたらすスポーツだという(注2)。

 そして、アメリカの都市においてストリートでの暴力の危険性が高まるなか、いかにして自分、家族、コミュニティを守るのかという課題もまた、MMAのトレーニングをする目的のなかに含まれている。

 こうしたアンドリーセンの語りには、古代ギリシアに端を発する西洋の伝統的価値への回帰の表明にくわえて、男らしさにたいするはっきりとした肯定がある。同時に、秩序を崩壊させたという点で、リベラルなアメリカ社会への批判もこめられている。

 このようなアンドリーセンのテクノ=オプティミスト宣言は、日本を含めネット上で賛否を呼び起こしてきた。かれの立場に賛同する人びとがいる一方で、かれの立場を批判する人びとも少なくない。ティールやアンドリーセンのような人びとのことを、テック右派(右派テック)と呼ぶ人びとも多い。

(注2)Marc Andreessen, “FIGHTING,” Marc Andreessen Substack, July 14,2023, in https://pmarca.substack.com/p/fighting