ヴァンスは以前、第1次トランプ政権の頃には保護主義的な政策に懐疑的な考えをはっきりと示していた(注3)。
過去のヴァンスによるトランプ批判は、SNSのダイレクトメッセージや口頭での発言によるものが主である一方、署名入りの文章のなかでも明確にトランプを批判していた。2016年7月4日の独立記念日付で『アトランティック』誌のサイトに発表された「大衆のオピオイド」という論稿がたとえばそうである(注4)。
トランプ批判の急先鋒が
2021年に突如手のひら返し
このなかでヴァンスは、トランプのことを「文化的ヘロイン」と呼んだ。
当時のヴァンスによれば、トランプが提案していることはまさに過剰摂取による中毒死がアメリカで社会問題になっている鎮痛薬のオピオイドのように、痛みからの安易な逃避でしかなく、複雑な問題にたいして単純な解決策を示すことしかできていない。それは人びとにわずかなあいだだけ安らぎを感じさせるかもしれない。だがトランプは、かれらを苦しめているものを治癒することはできず、そのことに人びとはある日、気がつくだろう。ヴァンスはそう書いた。第1次トランプ政権発足の約半年前の頃である。
そのヴァンスが、反トランプから親トランプへと華麗なまでに転向を遂げたのは言うまでもない。
ヴァンスは2021年3月、第1次トランプ政権で大統領副補佐官を一時期務め、このたびの第2次トランプ政権でふたたび大統領副補佐官兼テロ対策上級部長に任命されたセバスチャン・ゴルカのユーチューブチャンネルで、かつて自分は反トランプ的だったが、徐々に考えを変え、現在はトランプ支持者になったと述べた。2016年には自分はまだ何もわかっていなかったが、エリートたちは根本的に堕落しており、この国のことをまったく考えていないというトランプの主張がいかに正しいかを理解するに至った、とヴァンスは語った(注5)。
(注4)J. D. Vance, “Opioid of the Masses,”(July 4,2016) in https://www.theatlantic.com/politics/archive/2016/07/opioid-of-the-masses/489911/
(注5)井上弘貴「共和党の「トランプ化」に歯止めはかかるか」『国際問題』第701号(2021年6月)、38頁。