アメリカファーストを
ヴァンスは隠し持っていた
転向後の政治家ヴァンスに迫るとすれば、かれの発言を探る鍵は、第三のニューライト(編集部注/米国で台頭している新しい右派の潮流)の知識人たちにある。

パトリック・デニーン(編集部注/ノートルダム大学教授。ニューライトをかたちづくる「ポストリベラル右派」代表格。2023年に『体制変革――ポストリベラルの未来にむけて』という本を書き、進歩的なエリートによる支配を終わらせ、文化を優先し、民衆の知恵を大切にし、多数者と少数者の混合政体からなる共通善の保守主義に導かれたアメリカが到来することを求めた)の『体制変革』が刊行される直前の2023年5月、ワシントンD.C.にあるアメリカ・カトリック大学で刊行記念の講演とパネルディスカッション「体制変革とリベラリズムの未来」が開かれた。
その前半、デニーンによる基調講演がなされ、後半のパネルディスカッションに登壇したのはデニーンと、当時すでにオハイオ州選出の上院議員の職にあったヴァンス、そして『ワシントン・ポスト』紙でコラムニストを務めるクリスティン・エンバとヘリテージ財団の会長であるケヴィン・ロバーツ(編集部注/政治ストラジスト。親トランプの保守系シンクタンクとなったヘリテージ財団理事長。2023年の米大統領選挙の前年、同財団は「プロジェクト2025」という政策提言を発表。全900ページの提言の中には、小さい政府、国境警備の強化、移民関連の法律の厳格化といった、いかにも右派らしい政策が並ぶ)だった。
このパネルディスカッションのなかでヴァンスは、自分たちはポストリベラルであることを明言したうえで、アメリカを正しい道筋へともっていく方策として、アメリカ国内への投資が利益になるようにしていく必要、逆に海外に投資することが利益にならないようにしていく必要をすでに語っていた(注6)。
関税という表現こそ使っていないものの、政府と市場とを明確に分け、市場の自由を擁護する従来の右派とは異なるニューライトの立場にヴァンスが自覚的に身を置いているのがわかる発言だった。
https://www.youtube.com/watch?v=2ZbsiKEhy-8&t=2990s