会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。

企業の方向づけを正しく行うために、経営者が学ぶべきこととはPhoto: Adobe Stock

何千年もの間、
多くの人が正しいと言ってきたことを学ぶ

 私は経営者に、このことが一番大切だと説明しています。

 方向づけにしろ、経営者は判断するのが仕事です。

 その際に大切なことは、その判断が正しいかどうかです。

 もちろん、外部環境を的確に分析し、また、経営の原理原則にしたがっていることもとても大切ですが、何よりも大切なことは、人間として正しいかどうかです。

 儲かるか儲からないかという前に、正しいか否かということを考えなければなりません。

 そのためには、何千年もの間、多くの人が正しいと言ってきたことを学ぶことが必要なのです。

 具体的には、仏教や、論語を中心とする儒教、キリスト教の教えなどです。分かりやすい解説本なども多くありますから、こつこつと紙一重の積み重ねで学ぶことです。

「利他」「仁、義」「愛」は、
成功の根本原則

 仏教の根幹は「利他」です。儒教の根幹は「仁、義」です。思いやりや社会全体のことを考えるということです。

 キリスト教の根幹は「」です。どれも、本質は同じですが、何千年もの間、多くの人に説かれてきたのは、これらを実践することが難しい一方、本当にそれが分かれば、多くの人が幸せに生きられるからです。

 そして、多くの人が知らないことがあります。それは、これらが、幸せだけでなく、成功の根本原則でもあるということです。

 稲盛和夫さんは65歳になられたときに、京セラの経営職から少し距離を置き、仏教の修行を2年間されています。松下幸之助さんは成功してから、お坊さんに一緒に家に住んでもらっていたと言います。

 明治の大実業家の渋沢栄一翁の考え方の根幹は「論語」です。儒教の「先義後利(社会全体のことを先に考えて、自身の利は後にする、義を先にすれば利は後からついてくる)」という考えを根本に据えました。それで大成功されたのです。

 詳しくは説明しませんが、戦後教育でこうした幸せに生き、そして成功する基本的な考え方が消し去られてしまいました。

論語や仏教などの
良い本をもとに勉強する

 終戦から45年が過ぎた1990年以降、戦前の教育をきちんと受けた人たちが、政財官界から引退していた時期と、この国が長期低迷に入った時期とがぴったり一致するのは、偶然ではないと私は考えています(もちろん私は軍国主義や全体主義に反対なのは言うまでもありません)。

 勉強方法ですが、論語や仏教を解説した良い本は多くあります。

 論語で言えば私のお薦めの安岡正篤先生が書かれた『論語の活学』(プレジデント社)は秀逸です。

 松下さんや稲盛さんの本も正しい生き方を学ぶうえでとても勉強になります。

 いずれにしても、正しい判断をし、成功をつかむためにも、何千年もの間多くの人が正しいと言ってきたことを勉強する必要があることは言うまでもありません。

(本稿は[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動の一部を抜粋・編集したものです)

小宮一慶(こみや・かずよし)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。