また国は、文字の習得を容易にするために文字数を限定し綴り方を統一した。このことは国が積極的に庶民に教育を受けることを勧めたものと受け取れる動きであった。その結果として、王は国政に口出しする地方の有力者たちの影響を徐々になくし、庶民の子弟に教育を施すことで、国家に有益なまったく新しい社会階層を形成できたのである。
この格言はそのような時代に記された。世襲の子弟と叩き上げの地方出身の秀才とがしのぎを削る社会が展開されていたのである。極めて健全な社会である。「見るがよい。私はあなたを神の道に置いたのです。書記の運命は生まれた時から決まっている」という文言には説明が必要だ。この物語はドゥアケティという名前の一庶民が、彼の息子ペピを書記の養成学校に入学させるために都へ向かう道中で語った話だ。父親のドゥアケティは息子に向かって、どれだけ書記が素晴らしい職業であるのかを以下のように説いている。
ワニに食われるかも……
漁師や農民の過酷な境遇
「私は鞭で打たれた人を見たことがありますよ。あなたは心を書物に向けるべきです。労働者として連れ去られた男を見てみなさい。見るがよい、書物に勝るものはない。それらは水面に浮かぶ船であるからだ」あるいは「見るがよい、書記以外には監督者の居ない職業はない。なぜなら書記が監督者であるからだ」(「ドゥアケティの教訓」より)
さらに他の職業と比較しながらどれだけ書記という職業が良いものかを説くのである。たとえば最も身近な職業として、農民と漁師を挙げて次のように述べるのだ。
「農民はホロホロ鳥よりも泣き叫ぶ。彼の声はカラスよりも大きい。彼の指は酷い悪臭を放ち爛れている」(「ドゥアケティの教訓」より)
過酷な労働によって手先はボロボロなのであろう。まるで農民の慟哭が聞こえるようである。まだ若い彼の息子には十分に響いたはずだ。
「漁師についても話そう。ワニの暴れまわる川で働く彼は他のどんな職業の人よりも悲惨である」(「ドゥアケティの教訓」より)
漁師の運命はさらに過酷である。いつワニに襲われて命を落とすかわからない場所で仕事をしなければならない宿命なのだ。死と隣り合わせの状況で毎日を暮らさねばならない漁師の絶望感も息子に伝わったであろう。