
古代ローマを描いてきた漫画家・ヤマザキマリと、気鋭のラテン語研究者・ラテン語さんが、心に響くラテン語の格言を紹介。古代ローマの人々がいかに恋愛に奔放でおおらかだったのかを、2人が選び抜いた至言とともに伝える。本稿は、ヤマザキマリ・ラテン語さん著『座右のラテン語 人生に効く珠玉の名句65』(SBクリエイティブ)の一部を抜粋・編集したものです。
詩人・オウィディウスは
恋愛アドバイザー
ヤマザキ オウィディウス(注1)は、恋愛詩集など男女のあり方を取り上げた作品でもよく名前が知られていますよね。なので、やはり愛についての格言が非常に多い。
私はtristis eris si solus eris「あなたは1人でいると悲しくなる」、nitimur in vetitum semper cupimusque negata「我々はいつも禁じられたものを求め、拒まれたものを欲する」、militat omnis amans「愛する者は誰でも兵士である」の3つを、ラテン語さんはquoque magis tegitur,tectus magis aestuat ignis「隠していると、それだけ恋の炎は熱くなる」をオウィディウスの恋愛の格言として選んでいます。
オウィディウス以外に目を向けても、omnis amans amens「愛する者は皆正気ではない」、amantes amentes「愛する者たちは狂っている」、varium et mutabile semper femina「女は常に移り気で変わりやすい」などと、かなり愛を客観的に捉えているものも多い。古代ローマの人たちは日常的に愛に振り回され、奔走していたことが垣間見えてきます。
ラテン語 amantes amentesはテレンティウス(注2)が書いた喜劇のセリフが元になったフレーズで、洒落になってますよね。amansとamens、amantesとamentesで1文字だけ違っています。
誰かを愛する時に正気でいられないというのは、確かに当時もそうだと思いますし、現代においても、こと恋愛が関わってくると、今までにない一面を良くも悪くも人は見せるものだろうと思っています。
古代ローマ時代の愛情は
現代よりも奔放なため扱いづらい
穏やかな人だと思っていた友人でも、恋人にはすごいことを言っていたり、あるいは恋人から言われていたり。今までに言ったことのないような激しい言葉を言ったり、あるいは手を出してしまったりとか。
ヤマザキ こうした格言が生まれた当時はまだキリスト教的倫理が浸透していたわけではないですから、男女関係に関しては結構みんなそこはリベラルに生きていますよね。
注2 共和政時代の劇作家。紀元前185年~前159年。