「ネオ・ネグレクト」――この言葉はわたしの造語である。「衣食住に満ち足りた生活をしていても、親がわが子を直視することを忌避したり、わが子に興味関心を抱けなかったりする状態」を指す。
そう。先述した「全寮制」の学校に異様なこだわりを見せた母親は、ひょっとしたらネオ・ネグレクト行為に手を染めているのではないかと感じたのだ。
「過干渉」が問題視される中学受験
その正反対をいく親とは
中学受験の世界は昔から「保護者の過熱ぶり」「保護者のわが子への過干渉」が問題視されることが多かった。だから、わたしは塾の保護者会で、あるいは、書籍やメディア記事などで、保護者の過剰な教育熱を適度に冷ますような呼び掛けをおこなってきた。
しかし、「ネオ・ネグレクト」はその点で正反対なのである。わが子に対して冷め切ってしまっている保護者が「熱」を持ってもらえるような働きかけが必要となる。
普通は教育熱の高い保護者がわが子に選択させる中学受験。こういう性質を持つ中学受験の世界で、ここ10年ほど「ネオ・ネグレクト」の兆候が感じられるような気がする。
実際、同業者や私立中高一貫校の教員たちにヒヤリングすると、「塾を託児所とでしか考えていない」「わが子を学校に預けっぱなしで、あとは放置するような態度を見せる」保護者が増えているという。
中学受験という局所的なフィールド、しかも熱心な保護者が関与するとされる世界でこういう現象が感じられるということは、より広範に目を向けると、「ネオ・ネグレクト」現象がより多く観察できるのではないか……。わたしはそう考えた。
そこで、産後のケア事業、幼児期、保育園、小学校、中学校……。そんな多岐にわたるフィールドで見られる「ネオ・ネグレクト」について取材を重ね、1冊の本にまとめることを試みた。『ネオ・ネグレクト 外注される子どもたち』(祥伝社新書)がそれである。
わたしの想像以上に「ネオ・ネグレクト」は、そのエリア、分野ともに広域的に見られる現象だということが明確になった。たとえば、以下のような話が本書で登場している。