月見バーガーは日本の秋という体験そのもの

 第3の理由は、消費者の「飽き」を効果的に抑制する点だ。

 常に同じ商品が棚に並んでいると、どれほど人気があっても新鮮さは失われていく。研究では、特にミレニアル世代が同じものに飽きやすい傾向を指摘する。季節ごとの入れ替えは、消費者の意識から商品を一度消し去る。次に再登場したとき、商品は「新しいもの」として新鮮に感じられる。

 この仕組みは、消費者が燃え尽きるのを避け、1年を通じて高い関心を維持させる力を持つ。

 月見バーガーは毎年少しずつ改良が加えられたり、新しい仲間が登場したりする。定番の安心感と、新作への好奇心を両立させることで、消費者を飽きさせない工夫が凝らされている。

 第4の理由は、季節と商品を強力に結びつけることによるブランド記憶の強化である。
 
 論文では、あるクラフトビール醸造所の事例が紹介されている。

 醸造所は、カボチャを使った秋限定のビールを、地元のカボチャ投げイベントと連携させた。イベントの直前にビールの製造を意図的に終了させる。イベント来場者がビールを飲んだ後、店で探しても「もうない」という状況を作り出す。

 この「購入機会の喪失」が、翌年の購買意欲をかき立て、結果としてブランドの記憶と購入意図を強化する。

 月見バーガーも同様の構造を持つ。「秋のお月見」という文化的な行事と商品を強く結びつける戦略は、消費者の記憶に商品を深く刻み込む。月見バーガーは単にハンバーガーを売るのではない。日本の秋という体験そのものを提供しているのである。

 月見バーガーの持続的な成功は、単なる偶然の産物ではない。消費者の心理を深く読み解き、計画的に設計された優れたマーケティング戦略の結晶である。

 日本マクドナルドが創造したこの市場は、日本の秋の消費文化そのものを豊かにした。季節の到来を告げ、人々の会話を弾ませ、ささやかな楽しみを提供する。

 月見バーガーを巡る各社の創意工夫は、今後も消費者に新たな驚きと喜びを与え続けるだろう。

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