「塾に託せばなんとかしてくれる」
“新種の育児放棄”とは

 わたしの経営する塾「スタジオキャンパス」は世田谷区と港区の2教場を構える小規模な中学受験専門塾である。来年20周年を迎えるのだが、この8年連続で売上高が伸長している(コロナ禍で返金対応した2020年を除く)。つまり、生徒の数が増加の一途を辿っているということだ。

 この要因として考えられるのは、わたしたちの塾では「受験勉強」と「ご家庭」が分離できるような体制にしている点だ。

 たとえば、少人数定員制で講師は全員正社員で、ひとりひとりに細かく目が行き届くようにしていたり、日曜日以外は常時自習室を開放し、個別質問にも応じていたりする。ほかにも挙げればキリがない。簡単に言うと、子どもたちの中学受験勉強を塾で「囲い込める」ことを目指して運営している。

 正直に申し上げると、もともとは保護者がわが子の勉強を見ようとすると、互いが感情的になってしまい軋轢(あつれき)が生じ、その子が勉強嫌いになってしまうことを避けるためのシステムだったのである。その体制が、共働き世帯が増加している令和の時代にたまたまフィットしたのだろう。

 わたしは『ネオ・ネグレクト 外注される子どもたち』(祥伝社新書)を上梓した。「ネオ・ネグレクト」とは、「衣食住に満ち足りた生活をしていても、親がわが子を直視することを忌避したり、わが子に興味関心を抱けなかったりする状態」という新種の育児放棄を指し示す。

 ここ最近観察される現象であり、わたしもこの10年ほど、「塾にわが子を託せば何とかしてくれる」「金を払えば、親は何もしなくてよい」といった姿勢の保護者からの問い合わせを受けるようになった。同業者に確認しても異口同音にその手の保護者が目立ってきたという。