貯金、節約、保険、投資など、「お金のこと、周りの人より苦手かも……」。そう思ったこと、ありませんか?
この連載では、年間100世帯以上の相談にのっている発達障害専門のFPで自身もADHD当事者である『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』の著者・岩切健一郎氏が、お金について解説します。
発達障害の人も、そうじゃない人にも役立つヒントが満載です。
※現在、正式な診断名は「発達障害」から「神経発達症」へ変更になっていますが、この連載では広く知られている「発達障害」という表現を用います。

【お金の残酷な現実】「うつ病、発達障害」は保険に入れない? その知られざる理由とはPhoto: Adobe Stock

保険に入りづらい理由

 保険は「健康上の問題がある」と保険会社が判断すると加入が難しくなります。「健康な人」と「健康ではない人」が同じ条件で加入すると、健康な人は保険を受け取る可能性が低く、健康でない人は保険を受け取る可能性が高くなります。契約者間での平等性が保てなくなりますよね。

 健康ではないと判断された人が加入できないのは差別ではなく、保険の仕組み上の問題であることを押さえておきましょう

 それを踏まえたうえで、発達障害やうつ病の人が保険に入りにくいと言われる理由があります。私は保険募集人も務めているので、保険会社に直接ヒアリングした内容になっています。

①二次障害のリスクがある

 二次障害とは、発達障害の特性を理解してもらえないことが原因で発生する精神疾患です。具体的には、うつ病や適応障害、双極性障害などです。二次障害になると、入院や自殺の可能性が高くなります。他の契約者との平等性が保ちづらくなるために、保険加入が難しくなります。

②事故が多い

 特性のある人の中には、パニックを起こして予期せぬ行動に出たり、衝動的に体が動いたりする人もいます。そのため事故に遭いやすく、病院にかかる機会も多いことがあるため保険加入が難しくなります。

 実際に、ADHDは一般の人と比べて事故が多いというデータがあるほどです。注意力不足や多くの情報を一度に処理するのが苦手なことが特性であることも影響しているようです。

③事例が少ない

 このところ急速な認知度の高まりを感じますが、発達障害の人が保険に入れるかどうかを判断できるほどにはデータが集まっていないようです。告知するまでもなく診断があるだけで、健康な人と同じ条件では申し込みさえできない保険会社もまだあります。

 ただ今後、認知、理解が進むにつれて、緩和されることが予想されます。加入はできないままの会社も多いですが、認知は進んでいるのを現場に身を置く立場として感じています

④長く薬を服用している

 発達障害で処方される薬は、少なからず肝臓に負担があるようです。長期的な服用が保険会社的にリスクと捉えているとのことでした。ただ、薬を服用している当事者としては、保険の加入のために薬をやめて日常生活に影響が出るよりも、薬を適切に服用し日常生活が円滑に進むほうがメリットは大きいと考えています。

⑤病気を放置しやすい

 発達障害の人は体調不良に鈍感な人や、めんどくさいと言って病院に行かない人が多く、結果的に大病になりやすいことがあるそうです。

 私自身、親知らずの虫歯の際に、歯医者に行くのが面倒で先延ばしにした結果、歯痛とともに発熱し朝までのたうち回ったことがありました……。虫歯で済んだのでまだマシでしたが、重い病気でも同じことは充分に起こり得ると思えたのでした。

⑥うつの人は、症状の悪化も考えられる

 うつの人は症状の悪化で入院の可能性が出てきたり、自殺するリスクが高くなることが入りづらさの理由です。

 以上のように、健康な人と比べて病院にかかるリスクや病気が長期化するリスクがあるため、発達障害やうつの人は保険に入りづらくなっています。

内緒にすればいいんじゃない?

 ここまで読んで、

「そんなに入りづらいなら、
 本当のことを言わずに保険に入っちゃえばいいんじゃない?」

 と思った人もいるでしょう。
 結論から言うと、一部の保険を除いて必ず告知しなくてはいけません(無告知型の保険や一部の介護保険などは聞かれないので、その場合は伝える必要はありません)。
 健康状態や職業などについて保険会社に正確に告知する義務があります。

発達障害だと言わずに保険に入ったらどうなる?

 実際に発達障害の告知をせずに保険に加入したため、告知義務違反になり保険契約が解除された事例*も存在しています。

 この保険加入者は「発達障害は病気ではないから告知の必要はない」と考えて告知しなかったのですが、そもそも通院していることを告知していなかったために、保険が解除になりました。

保険の営業担当が「黙っておきましょう」と言うこともある

 保険契約は、保険会社と加入者との「契約」です。告知の項目は各社で異なりますが、告知書で聞かれていることには正直に答えましょう。

 保険の営業担当者に「黙っておきましょう」と言われて書かなかったとしても(まれに保険の営業担当がこう言うことがあります!)、正しく記入しないとあとで痛い目に遭うのは自分です。あなたに悪気がなかったとしてもです

「え……。じゃあ保険は入れないじゃん」と思った方。悲観的にはならないでください!
 入れる保険はゼロではありません。保険会社の選び方など、いろんな工夫をすれば、自分に合った保険を選ぶことができるのです。

*一般社団法人生命保険協会『[事案 25-78]告知義務違反解除取消請求』より

(本記事は、『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』から一部抜粋・編集したものです。)