長い時間働くほど、あるいは必要に応じて夜間や休日など通常の営業時間外に働けるほど、単位時間あたりの賃金が高くなる場合、その上乗せ賃金は「長時間労働プレミアム」と呼ばれることがある。

 長時間労働が難しい多くの女性は柔軟な働き方ができる仕事(ゴールディン教授はこれを「フレキシブル・ジョブ」と呼ぶ)を選ぶのに対して、主として男性が長時間労働のリターンが高い長時間労働プレミアムを付与する職業(同じくこれを「グリーディー・ジョブ」“強欲ジョブ”と呼ぶ)を選んで高収入を得るため、男女賃金格差が生じていると、これらの論文は主張する。

本当に評価されるのは
「長時間働けるかどうか」

 クラウディア・ゴールディンの研究をもう少し解説すると、彼女は、米国のO-NETというすべての職業の職務内容や要求されるスキルに関するデータベースを使って、柔軟な働き方の実現を可能にする職務属性を5つ示した。

 すなわち、(1)タイムプレッシャーがあまりない仕事、(2)他人との接触が少ない仕事、(3)他人との関係構築があまり重要ではない仕事、(4)仕事が構造化されていない(業務の進め方とか優先度とか目標を自由に変えられる方が柔軟な働き方が可能になる)、(5)意思決定の自律性(自律的に意思決定できる方が柔軟な働き方ができる)の5つである。

 職業ごとに、その職務属性の指標の平均値を取って横軸に置き、縦軸にそれぞれの職業における男女賃金格差を計算してグラフにする(図表1-7)。

図表1─7 長時間労働に対するリターンと男女賃金格差同書より転載 拡大画像表示

 ここで、平均値が高いほど、柔軟な働き方が難しいことを意味する。図表1-7が示すように、確かに柔軟な働き方が難しくなる職業ほど男女賃金格差が大きいという結果になっている。