特にビジネスや医療の分野では、長時間労働のリターンが高く、かつ男女賃金格差が大きい職業が多いということが分かる。
これは米国における研究であるが、日本でも同じようなメカニズムが働いていることは容易に想像できる。
特に、日本では職が標準化されていない分、従業員同士の代替性が低く、自分しかできない属人的業務を多くの人が抱えているため、長時間労働できることの企業にとっての価値が高い。
つまり日本では、長時間労働プレミアムがより発生しやすく、フレキシブル・ジョブの賃金は必然的に低くなる。
子供を生んだ女性は
収入が6割にまで落ち込む
女性でも、家庭も子供も持たずにキャリアを積み上げていけば、長時間労働プレミアムの発生する仕事にとどまることができる。
しかし、多くの女性は出産・育児をきっかけに「マミートラック」、すなわち家庭との両立はしやすいものの昇給などからは縁遠いキャリアコースに入る。
さらに日本では、第1子の出産・育児と同時に仕事を辞める女性は、出産前に就業していた女性全体の3割程度にのぼり、ここでも女性の所得の低下が発生してしまう(第16回出生動向基本調査、2021年、に基づく2015~2019年時点の統計であり、足元ではこの割合は低下していると予想される)。
こうした出産や育児による所得の低下は「チャイルドペナルティ」または、「マザーフッドペナルティ」と呼ばれる(注3)。
先進国の中でも、日本はチャイルドペナルティが特に大きい。出産・育児を経験し、長期間の休業もしくは労働市場からの退出を余儀なくされた女性は、やや賃金が低い職種に移行するか、同じ仕事に戻っても、その後の所得は横ばいとなる傾向がある。
男性、あるいは出産を経験しない女性との所得の差は、時間が経っても埋まることはなく、むしろ開いていくのだ。
注3 Budig, M. J. and P. England (2001) “The Wage Penalty for Motherhood”, American Sociological Review, 66(2): 204-225.







