インタビューで語られた言葉ではなかった

 この「炎上」については「ノイズ」以外にもたくさんの論点があり、それらが複雑に絡み合った様相を呈していたが、ひとつ、あまり議論されていないと感じる点があった。この発言が、どこで出たかということだ。

 吉田氏の発言は、8月16日に開催された「ANIME FANTASISTA JAPAN 2025」というイベント内の有料トークショー「吉田恵里香とアニメのシナリオ」の中でのものだった。

「ANIME FANTASISTA JAPAN 2025」は東京都武蔵野市をアニメーションの街として盛り上げるため、同市に本拠地を置くアニメ制作会社の参加を中心に据えたイベントだ。会場は武蔵野市にある吉祥寺エクセルホテル東急の7、8階。立地的にもハコのサイズ的にも、決して「ものすごく大規模なイベント」ではない。

 吉田氏のトークはメインステージで開催されたさまざまなトークショーのうちのひとつで、観覧料金は2200円。なお、その日のメインステージで行われるすべてのトークショーを観覧できる1DAY PASSは7700円、2日間すべてを観覧できる2DAY PASSは1万5400円だった。

 同イベントを中心的に構成するのは、監督やアニメーターといった制作者がクリエイティブについて語るトークショーで、他にはデジタル作画講座と称したワークショップ、ライブドローイング、アニメ制作スタジオを巡るツアーなどが開催されていた。一方で、人気声優のトークやライブパフォーマンス、話題作の大々的な新作発表記者会見などはない。

 こうして見ると、「ANIME FANTASISTA JAPAN 2025」はコンベンション(会議、集会)の性質が強い。有料講演会の集合体、といったところか。ホテル内の宴会場フロアを会場としていること、トークショー単位で料金が発生することも、その印象を強めている。

 さらに言えば、吉田氏のトークショーの聞き手を担当したのは、アニメライターで「アニメスタイル」編集長の小黒祐一郎氏。40年近くにわたりアニメ雑誌の記事作りや関係者インタビューをこなしてきたベテランで、アニメ制作の現場について熟知している人物である。

 要するに、吉田氏のトークは「アニメ制作の実際について一定以上の知識と理解がある人、お金を払ってまで制作の実際を学びたい人」に向けて、「制作プロセスを熟知している聞き手」によって引き出されたものだった。

 吉田氏は新聞や雑誌やウェブメディアの単独インタビューに答えて語ったわけではない。かなりセグメントされた聴衆に向けて直接語っていた。ここがポイントだ。