しかも大抵の場合はAが選ばれます。

 ここは難しいところなのですが、BやCをつくるときに手を抜いているとか、Aが選ばれるように仕向けているとかそんなことはないのですが、実際にそういった気持ちが無意識にもまったくないと言い切るのは難しいかもしれません。

 もちろん、この「いくつか聴いてみて判断したい」というような気持ちもわからないことはありません。聴いて選ぶ側は、たとえばCMを制作しているプロであって「音楽のプロではないのだから、1曲では判断できない」と考えるのかもしれません。

 ですので、こういった場合にはAIのように自分のつくったものにある意味で一切の忖度がない提案をするのが、1つのやり方かもしれないなという思いもあります。

「良いメロディ」という曖昧な
定義の中でAIは過去から学習する

 さて、そのような利用の面でのメリットは度外視したとしても、「AIに良いメロディがつくれるのか」というもっと根本的な問題は残ります。これが、「利用の面」とまったく無関係ではないということも問題をさらにややこしくしています。

 実際にAIがつくったメロディを、何度か聴いたことがありますが、特段違和感のようなものは感じませんでした。これを「人間がつくった」といわれても受け入れることにはとくに抵抗はないでしょう。

 そもそも「良いメロディ」というのが何かというのは非常にやっかいな問題です。

 これに明確な答えがあるならば、AIといわずとも常に完璧なメロディをつくるアルゴリズムをつくることは、それほど難しいことではないはずです。

 メロディというのが、譜面に表すことのできる音程とリズムの時間変化だとしたら、その組み合わせは広義の可算無限ですが、現実的にもその組み合わせには制限があるため、メロディの組み合わせにはある程度限界があります。よって、「良いメロディ」の定義が存在するならば、その中での最適解を計算することができてしまうことになります。

 そこでとりあえず、「良いメロディ」の定義はそう簡単にはできない、という素朴な前提に立つことにします。するとAIができることというのは、基本的に過去の楽曲から学習することです。その学習から、指示に対して最も的確なメロディを取り出してくるのがAIだということになるでしょう。