衝撃であった。では、あれは詐欺だったのだ。これでも警戒心は相当強いと自負していたのに。あれはAIではなく、私が「これはAIと接しているのか」と考えている気配を察して愚鈍なAIのフリをした狡猾な人間であった。
銀行の担当者はその後の展開を話した。不正利用ということで申請を進めます、お金は戻ってくるかわからないが取り戻すための手続きはします、結論が出るまで2、3カ月かかります――。
担当者に感謝を伝え電話を切ったが、私は体が震えた。
メインで使っている口座でなかったから被害が5万円ほどに限定されたのは不幸中の幸いだが、それでも5万円。大きな金額であり、いろいろなタイミングが嚙み合ってしまった不運に対する怒り、くだらない詐欺に引っかかった自分への怒り、詐欺師を喜ばせのさばらせてしまったことへの怒りなど、いろんな怒りと悔しさに包まれた。
誰しも冷静な判断力を失う瞬間が
他人事ではない詐欺被害
父がかつてオレオレ詐欺に引っかかりかけたことがある。
息子が半分拉致されているような状態だと聞いて「息子に合わせろ住所を教えろ」と激高する父に対して、電話口の詐欺師が「来ないでほしい。金だけ振り込んでほしい」と困惑するうちに母が登場して偽物だと看破。事なきを得た。
しかし父は「息子の危機」と聞いて冷静な判断力を失ったし、私は「利用禁止ユーザー」とか「ネット手続きでイライラしない決心」とかいくつかの諸要素が重なって普段の判断が狂わされていた。平時はどれだけ理知的でも何かの拍子で判断が狂わされることはあるし、詐欺は思ったより他人事ではなく日常の中のすぐそこに潜んでいる。
であるから、一度引っかけられたわが身からすると、国勢調査に便乗した詐欺は、実に引っかけ率が高い狡猾なやり口に思える。少しのいぶかしさがあったとしても「国勢調査ってたしかこんなだっけね」と自分で勝手に納得しながら個人情報を教えてしまう可能性は充分に考えられる。
ということなので、賢明なる読者諸氏に置かれては邪悪で姑息なる詐欺に引っかかることなきよう、ぜひ一層の警戒をもって過ごされたい。
なお被害にあった5万円ほどだが、もう完全に諦めていたところ、つい今しがた口座を見たら全額復活させてもらったようである。
銀行は神であり、詐欺はあまねく滅すべし。全方位から警戒されて養分が与えられず枯れればよろしい――来年の初もうではこれを神様にお願いするつもりである。