これが15〜20年前であれば「ネット炎上はあれど、さすがにフィクションゆえの荒唐無稽」と思えたかもしれない。しかし昨今の炎上に見られる、「犬笛(叩きたい人を晒しあげてファンネルに攻撃させる行為)」や、個人特定のスピード感、個人情報に尾ひれがつくことで憎悪が増幅していく様子が映画にはそのまま落とし込まれていてゾッとする。

 シリアスではなくどちらかといえばコメディ要素があるので、それが救いである。

主人公はネット上で憎まれがちな
大手企業勤務の「勝ち組」

 「あるある」なポイントとして挙げられるのは上記のような点だけではない。

 山縣は50代のビジネスマンだが、大手住宅メーカーの部長職であり、広い一軒家に住みベンツに乗っている。妻子もいて、趣味はゴルフ。こういった要素はネット上で「勝ち組のエリート」として憎まれがちであり、ひとたび「叩いて良い」動機が生まれると徹底的に晒される。

 特にネット民の好奇心と嫉妬心を寄せ付けるのは「大手企業勤務」であることだ。

 さらに世代間対立もうまくストーリーの中に組み込まれている。若者世代は上の世代の負債を押し付けられたという意識があり、不満が溜まっている。だから50代以上の逃げ切り世代(特にエリート)に怒りが向けられる。

 一方で上の世代の管理職たちは「最近の若者は根気がない」「35歳以下からが顕著」などとリアルな場で愚痴を漏らす。

 ネット上ではどちらかというと若い世代の方が有利な状況があり、目上の世代への鬱憤が、同世代で団結するための動機にもなる。これが物語の中でどう収束していくかも見どころの一つだ。

 また、個人的には、途中で登場する私人逮捕系YouTuberが印象に残った。再生回数を稼ぐために炎上に飛びつくこのYouTuberは、粗暴で理性に欠けるだけでなく、徒党を組んでいるだけにタチが悪い。

 ストーリーを進ませるための良きコマであり、悪役としてのキャラクタライズが完璧である。これも15〜20年前であれば「いくらなんでもあんな悪党っぽい悪党は現実にはいない」と思えた。しかし2025年を生きる人々は、現実にあのようなYouTuberが実在することを知っている。もはやフィクションよりも現実の方が先を行き、フィクションが後から追いかけている。