金融インサイド#1Photo by Go Takano

千葉銀行と千葉興業銀行は9月29日、経営統合の基本合意を発表した。仕掛け人の投資ファンド、ありあけキャピタルによる異例の再編劇である。しかし会見で千葉銀行の米本努頭取は「店舗統廃合は予定していない」と断言。同一県内の統合において効率化の“王道”とされる重複店舗の整理を否定したことで、統合メリットの実効性に疑念が浮上。業界内には早くも“成果なき再編”への懸念が漂っている。長期連載『金融インサイド』の本稿で、その真相を探った。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴、高野 豪)

ファンドが仕掛けた地銀再編劇
店舗統廃合“封印”に漂う疑念

「交渉開始から半年で経営統合の基本合意にまでこぎ着け、次のステージに進めたことに意義がある。これから新しい地銀再編の形を提示できればいいと思う」

 千葉銀行と千葉興業銀行の統合を仕掛けた、ありあけキャピタル代表・田中克典氏は両行の会見をそう語った。

 地方銀行の再編自体は決して珍しいことではない。青森銀行とみちのく銀行の合併、群馬銀行と第四北越フィナンシャルグループ(FG)の経営統合など、近年も事例は相次いでいる。

 ただし今回の統合が特異なのは、投資ファンドが主導した点にある。

 ありあけキャピタルは、元ゴールドマン・サックス証券の銀行アナリストだった田中氏が設立した金融特化型ファンド。22年から千葉興銀に投資を開始し、25年1月には議決権比率を19.9%まで引き上げ、筆頭株主となった。

 田中氏の目に留まったのは、千葉興銀の高い経費率だ。経費率(営業経費÷業務粗利益)は銀行の効率性を示す指標で、数値が高いほど非効率であることを意味する。千葉興銀は78.0%(25年3月期決算、以下同)と県内3行で最も高く、全国的にも経費率の高さが際立つ。一方の千葉銀は48.1%と全国屈指の低さで、総資産規模も千葉興銀の約7倍に達する。

 田中氏は「24年1月に経費率改善を求め、株主として提携先を探すよう伝えたが進展はなかった。そこで25年1月に議決権を19.9%まで引き上げ、自ら売却先を探した」と明かす(『千葉銀&千葉興銀の再編仕掛け人、ありあけキャピタル代表を直撃!千葉興銀株の取得から売却までの経緯を激白』を参照)。このような経緯に加え、同一県内での店舗網の重複を踏まえれば、統合後は店舗統廃合による合理化が既定路線とされる流れだ。

 ところが、会見で店舗戦略を問われた千葉銀の米本努頭取は「現時点で店舗統廃合を進める考えはない」と明言した。同一県内での再編では、重複店舗の整理は効率化の“王道”。それを否定した背景にはどのような事情があるのか。

 次ページでは、千葉銀が店舗統廃合を否定した背景を探る。市場関係者の分析や過去の再編事例からは、統合効果を左右する壁が浮かび上がり、同じ轍を踏む懸念もにじむ。