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2025年2月末、ミッド・スモールPEファンドのJ-STARが医療スタートアップMTUを買収したが、わずか1カ月後に当時の原拓也社長を「重大な疑義」で電撃解任した。その背景には、原氏による着服疑惑やセキュリティークラウドサービスの架空疑惑があった。長期連載『金融インサイド』内の特集『J-STAR崩壊 スタートアップ投資の罠』の第2回では、これらの疑惑に加え、MTUが掲げた事業内容と実態の乖離(かいり)を検証する。歯科医院向けポータルや医療クラウドを標榜(ひょうぼう)しながら、実際にはSNS運用支援を中心に展開していた同社。その実態からJ-STARの投資判断の甘さを浮き彫りにする。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴、田中唯翔)
MTUの主要事業はSNS運用代行
被害を受けたクリニックが実名告発
2025年2月末、プライベートエクイティ(PE)ファンドJ-STARが医療系スタートアップMTUを買収したが、わずか1カ月後に原拓也社長を「重大な疑義」で解任した。その背景にあった疑惑を第1回で報じている。
では、J-STARが出資したMTUとは、いったいどんな企業だったのか。
MTUは20年、原拓也氏が設立した医療系スタートアップである。24年8月にベンチャーキャピタル(VC)から4.5億円の資金調達を受けた際のリリースでは、歯科医院の集患に特化したポータルメディア「BEAUTEETH(ビューティース)」や、医療機関向けメディカルセキュリティークラウドサービスの「Mowl(マウル)」を主要事業に掲げていた。
しかし、ダイヤモンド編集部が入手したMTUの顧客先リストや契約書を確認すると、異なる実態が浮かび上がる。MTUが実際に展開していた主要事業は、ポータルサイト運営でもセキュリティークラウドサービスでもなく、SNS運用代行やホームページ作成支援といったマーケティング支援業務だったのだ。
しかも複数のクリニックによれば、数百万円規模の契約を結んだにもかかわらず、MTU側のSNS運用支援は極めて稚拙で、集患効果はほとんどなかったという。
MTUの契約先の一つである、5DENTAL東京銀座の阿部洋太郎院長は「MTUはSNS運用の質の低さから、集患効果がほとんどなかった。それだけでなく、自院で施術した症例写真が全く別の症例としてMTUホームページのトップ画面に無断で掲載されるなど、稚拙な対応にあきれるしかなかった」と憤る。
つまり、MTUは架空疑惑の浮上したMowlとは別に、実際に手掛けていたクリニック向けSNS運用支援でも数多くのトラブルを抱えていたのだ。
次ページでは、歯科医院向けポータルや医療機関向けセキュリティークラウドを掲げながら、実際にはSNS運用代行業で高額契約を結び、集患効果の乏しさや症例写真の無断掲載、名刺偽装まで行っていた実態を明らかにする。併せて、こうした問題を見抜けないまま買収に踏み切ったJ-STARの投資判断の甘さにも焦点を当てる。







