金融インサイド#2Photo:Bloomberg/gettyimages

信用金庫と信用組合で異変が起きている。第三者委員会から「我が国の金融機関の歴史を見ても類例をみないほどに悪質」と評されたいわき信用組合の一件をはじめ、経営陣主導の不祥事が後を絶たない。また、有価証券運用で多額の含み損を抱えた栃木信用金庫に信金中央金庫が資本支援を決定。有価証券運用の課題も顕在化する中、金融庁が全国の信金・信組に対して重点的にモニタリングする二つの項目が判明した。長期連載『金融インサイド』の本稿で、その詳細をお届けする。(ダイヤモンド編集部 高野 豪)

いわき信組の不正に栃木信金の資本注入
業界を覆う“異変”に金融庁が監視強化へ

 東北財務局は今年5月、長年にわたる巨額不正融資を組織的に隠蔽したとして、いわき信用組合に対して業務改善命令を発出した。経営陣主導の下、ペーパーカンパニーを経由した迂回融資や個人の名義を勝手に使用する「無断借名融資」を通じ、業況が悪化した大口融資先に不適切な形で資金を供給。同融資の発覚を恐れ、複数の横領事案を当局に報告せず隠蔽していた。

 第三者委員会の調査報告書によると、不正融資の規模は2004年3月ごろから25年3月末にかけて少なくとも1293件、累計約248億円に上る。うち約224億~226億円は利息や元金返済で同信組に戻ってきたものの、約21億~23億円は外部流出した。大口融資先への資金供給と横領事案の補填に利用されたとみられるが、依然として約8億5000万~10億円は使途不明のままだ。

 金融庁は、全容解明のため立ち入り検査に着手。現在も事実確認のため検証を進めている最中だという。

 一連の問題は「この時代には考えられない話」(信組役員)というのが通説だが、信金・信組にとって他人事とはいえない。

 苫小牧信用金庫は旧経営陣主導の下、法令で禁止されている土地の取得や賃貸のほか、取引獲得を目的とした不動産媒介などに手を染め、北海道財務局より25年5月に業務改善命令を受けた。福島県商工信用組合も、旧経営陣が着服などの不祥事を把握していたにもかかわらず当局へ報告せずに隠蔽したとして、同年3月に東北財務局から業務改善命令を受けている。

 これだけではない。金利のある世界への移行に伴い、有価証券運用でも異変が生じている。

 最たる例が、満期保有目的の国債などで有価証券全体の含み損が68億円(25年3月末時点)に膨らんだ栃木信用金庫だ。財務健全性の確保のため、同信金は信金中金へ予防的な資本支援を要請。資本支援額は非公表だが、40億円程度が投入されたとみられる。

 業界で相次ぐ問題に、各財務局に検査・監督を委任する金融庁も動き出す。今年8月末に公表した2025事務年度(25年7月~26年6月)の金融行政方針には、信金・信組をはじめとした協同組織金融機関に対し、財務局と連携してモニタリングの強化に乗り出す方針を記した。信金・信組へのモニタリングが強まれば、これまで光が当たらなかった負の側面があぶり出される可能性もある。

 金融庁は信金・信組に対する検査において、どこに焦点を当てるのか。次ページでは、取材で判明した当局の重点モニタリング項目に加え、今後あぶり出される可能性が高い信金・信組の問題点を明らかにする。