金融インサイド#5Photo:PIXTA

J-STARは、中堅・中小企業を投資対象とするミッド・スモールPEファンドの雄として業界内でも一目置かれている。ところが、その名門ファンドで今年、前代未聞の投資崩壊劇が起こっていた。炎上案件は、医療系スタートアップのMTUである。買収完了からわずか1カ月後、J-STARはMTUの原拓也社長を「重大な疑義」により電撃解任。その背景にある“衝撃疑惑”がダイヤモンド編集部の取材で判明した。長期連載『金融インサイド』内の特集『J-STAR崩壊 スタートアップ投資の罠』では複数回にわたり、名門ファンドが犯した“大失態”の全貌を追う。初回の本稿では、買収後に明らかになったMTUの事業実態や不正行為に関する疑惑の数々を、投資責任者が周囲に明かした内容とともに公開する。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴、田中唯翔)

PEファンドのJ-STARが大失態
MTU投資トラブルは警察沙汰に発展

「まさか、あのJ-STARが」――。

 この半年間、プライベートエクイティ(PE)ファンドやスタートアップ業界の一部で、同社を巡るうわさが絶えない。ミッド・スモール(中小型)キャップファンドの雄として知られる名門で、異例の“投資崩壊劇”が起きていたからだ。

 J-STARは2006年創業。30人超の陣容で中堅・中小企業に軸足を置く独立系PEファンドだ。堅実な運用と豊富な実績で知られ、業界内でも一目置かれる存在だった。

 その名門が足をすくわれた案件が、医療系スタートアップのMTUである。

 MTUの買収からわずか1カ月後、J-STARは当時の社長・原拓也氏を「重大な疑義」により電撃解任した。原氏は、東京美容外科の麻生泰院長に「ガイアの夜明け」や「カンブリア宮殿」への出演を持ちかけ、高額の出演料を提示した疑惑により昨年12月にSNS上で炎上した人物でもある。

 ただし社長解任は、この炎上とは無関係だ。J-STARは当該疑惑を把握した上で買収に至ったからだ。

 では、原氏の「重大な疑義」とは何だったのか。

 実は買収後に、MTUの事業実態や原氏の不可解な行動に深刻な疑惑が発覚したのだ。M&A案件に関連した取引先の数社に対し支払いが一時的に滞り、社内外のトラブルは警察沙汰に発展。現在も収束していない。

 ダイヤモンド編集部は原氏の社長解任以降、約半年間にわたり多くの関係者を取材した。その結果、MTUだけでなく、J-STARの投資プロセスにも問題があったことが分かった。

 次ページでは、買収後に次々と浮上したMTUの“衝撃疑惑”の全貌を明かす。

 サービスの実態、巨額資金の流れ、そして原氏の不可解な行動――。J-STARの投資責任者が周囲に明かした内容と共に、原氏解任に至るまでの全過程を示し、名門ファンドが敢行した投資プロセスの問題点を浮き彫りにする。

図表:MTU原社長解任までの経緯(サンプル)