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いわき信用組合で発生した巨額不正融資事案の特別調査委員会が10月31日、調査報告書を公表した。金融機関の“禁忌”である反社会的勢力との関係がつまびらかとなり、金融庁も同日中に業務改善命令を打った。長期連載『金融インサイド』の本稿では、10億円近くの資金が闇に消えた驚愕(きょうがく)の事実を明らかにし、その処分内容から浮かび上がる金融庁の真意を検証する。(ダイヤモンド編集部 高野 豪)
白日の下にさらされた「黒い関係」
反社の不当要求に約10億円支払い
金融機関として“禁忌”である反社会的勢力(反社)との黒い関係が、白日の下にさらされた――。10月31日、いわき信用組合の特別調査委員会が公表した調査報告書がそれである。
発端は5月。長年にわたる巨額不正融資を組織的に隠蔽(いんぺい)したいわき信組の第三者委員会が公表した調査報告書だ。報告書によると、不正融資の累計額248億円のうち8.5億~10億円が使途不明とされた。
第三者委員会の報告書で全容を解明できなかった不正融資事案や使途不明金などの実態を把握するために設置されたのが特別調査委員会だ。同委員会の追加調査で発覚したのが、1990年代から反社会的勢力への資金提供が断続的に繰り返されていた事実だった。
今回の調査報告書は、江尻次郎氏が理事長だった04年~16年の間、不正融資によって捻出された現金のうち10億円前後が反社の不当要求に対する支払いに充てられたと結論づけている。「現代の金融機関にとっては禁忌というべき反社との関係を断ち切ることなく継続していた」。いわき信組が隠蔽したかったのは、この”黒い関係”だった。
いわき信組には12年1月、200億円もの公的資金が注入されている。いわき信組へのモニタリングなどを実施してきた全国信用協同組合連合会(全信組連)も、黒い関係を見抜けなかった。
全信組連は25年3月、優先出資を引き受ける形でいわき信組に対し、これまで注入してきた公的資金とは別枠で50億円の追加の資本支援を実施したばかり。その後、いわき信組と反社との関係が明らかとなったことから、全信組連の担当者は「言語道断だ」と憤りをにじませる。
一方、立ち入り検査を実施した金融庁は、いわき信組に対して2回目の業務改善命令を発出した。
検査では、無断借名融資のリストを管理していたパソコンをハンマーでたたき壊した旨を説明した職員が、検査官に対して虚偽説明していたことが発覚。実際は元専務の坪井信浩氏が該当パソコンを保持していたものの、坪井氏自ら処分したことも明らかとなった。坪井氏は調査委員会に対し「無断借名融資の全容が解明され、反社への資金提供が表沙汰になることを避けたかった」と説明している。
検査・監督を担う東北財務局は、検査での虚偽説明や報告徴求命令に対する虚偽報告などの悪質性を踏まえ、同信組に対する刑事告発を検討する。「協同組合による金融事業に関する法律」で明記される虚偽報告や虚偽答弁に当たるためだ。告発対象は法人か個人かを含めて今後詰める。
過去にUFJ銀行(現三菱UFJ銀行)の検査忌避などで刑事告発した事例はあるものの、同庁関係者は「(刑事告発自体)極めて稀だ」との見解を示す。今事案の悪質性がそれほどまでに高い証左とも言えよう。
同庁は業務改善命令の中で、現在も続く反社との取引の遮断に加え、新規融資の一時停止などを求めた。同庁幹部は、反社に毅然とした態度で臨まず、経営陣主導のもと長年隠蔽してきたことを踏まえ「金融機関としてあるまじき事態であり、極めて遺憾」と述べる。
次ページで、いわき信組が反社の食い物にされた、驚愕(きょうがく)の事実を調査報告書から読み解く。そして、その行政処分の中身から浮かび上がった、金融庁の真意を明らかにする。







