「部下を育てる」という管理職の役割
「A課長は、会社の方針もあり部下に仕事を任せることができない。部下の成長につながるだろうとわかっていても、失敗したら自分が責められると思っているのでは?しかしそれでは課長の役割を十分に果たせない。部下を育てるために、能力に合った適切な業務配分を行い、成長の機会を与えることは管理職としての大きな役目です。ただしA課長の指導方針が会社に起因するものであれば、D部長にも動いてもらう必要があります」
○ Bはおとなしい性格だが、営業職でキャリアアップする意志はあった(実際に何回も担当を持ちたいとA課長に訴えている)。しかしA課長はBの性格や、軽易な業務のみしか与えていないため「まだ担当を持つのは早急」と判断した可能性がある。管理職の役目について自覚してもらうための機会を設ける。
○ 人事担当の責任者として、D部長が直接若手社員と面談し、キャリアアップに関する希望を聞く機会を設け、担当課長にフィードバックする(これは実施済み)。
○ 「なぜ、A課長がBに対してそうしていたのか」を考える必要がある。会社の方針(働き方改革に対する考え方)や管理職者へのハラスメント対策教育(例えばパワハラ防止策ばかりに力を入れすぎて、管理職者を委縮させている可能性があるなど)に問題点がないかを確認し、改善する。
○ D部長はA課長などの中間管理職に対するフォローも徹底する。
「具体的に言うと、A課長が部下の状況を把握した上での指導やサポート、定期的な評価やキャリアプランニングなどを実行することで、Bさん自らが成長を実感できるようにすればいい。キャリアアップを図るには、『小さな仕事で成功体験を積ませる』『ある時期になったら目的と期待を伝えた上でレベルの高い仕事を任せる』などの具体例があります」
E社労士の助言を得たD部長は、その後新入社員を含む若手社員に対する育成方法を見直すことにした。業務上必要のない残業を抑制する方策は継続するが、業務内容や業務量などに関しては社員の現状やキャリア形成度合いによってその都度検討することにした。A課長とは再面談を行い、上記の説明を行ったうえで、Bを含む若手社員に対する育成方針を見直すよう促した。更に、D部長は中間管理職へのハラスメント対策研修の項目に「部下育成責任と配慮のバランス」を加えること、中間管理職に対して指導方法などのフォローも積極的に行うことにした。
9月中旬。A課長はBを呼び、
「10月から君に取引先を5社受け持ってもらうことにした。特に丙社は新しく顧客になる会社だからしっかり頼むよ」
と笑顔で言った。
「そして……様子を見てからだが、追加でもう数社担当を増やすつもりだ。私の指導もその分細かくなるけど大丈夫かな?」
「はい、がんばります!」
Bはその後D部長と面談し退職届を取り下げた。D部長から報告を受けたA課長は「これでB君も立派な営業マンになるだろう。それまでしっかりとフォローしなくっちゃ……」とつぶやいた。