これまではなぜそのような問題が顕在化してこなかったのか。その理由として最も大きいのは、ミドルシニア社員のボリュームが今よりも少なかったという事情である。これまでであれば定年前後の社員がそれほど多くなかったことから、多少の問題は目をつむってこれたものが、65歳までの雇用義務化によってマネジメントの問題にも向き合わざるを得なくなっている。
年上部下のマネジメントは
学ぶのが困難な状況にある
しかし、これまであまり前例のなかった年上部下に関する一般化された研修コンテンツはほぼないというのが現在の状況であり、人生の先輩だから敬意を払いましょう、だけど言うべきことは言いましょう、といったスローガンレベルに留まっているのが多くの研修の実情だろう。
企業にとって年上部下マネジメントは、今後ますます重要度が増していくはずだ。
年下上司と年上部下──双方はどのように見ているのか。その現状を確認したい。
まず、筆者がさまざまな企業でヒアリングする中で感じるのは、近年のマネジャーは実に忙しいということだ。
ざっと挙げただけでも、目標設定、部下の評価、労務管理、コンプライアンス対応など。また顧客からの要望が複雑化し、業務・サービスの難度も高くなっている。離職や定着など若手のエンゲージメント問題も気にかかる。そんな状況にある年下上司にとって、年上部下に対しては次のような感情を持ちがちである。
・なぜ、自分の部下に年上メンバーがいるのか
・そもそも年上部下はもちたくない(年下だけが部下であればよかった)
・年上部下には言葉遣いひとつとってもとても気を使う
・できれば自分の業務は自分で進めてほしい(若手の育成などに関わることで精いっぱい)
・目標設定なども自分でどんどん進めてほしい
・若手のモチベーションを下げるようなことはしてほしくない
このように多くの上司の本音を列挙していくと気付くが、そこには年上部下への「期待」という意味合いはなかなか入ってこないのである。専門知識が高くて助かる。人脈が広くてとてもありがたい──もちろんこういった年上部下もいるが、期待したくなるようなハイパフォーマーは稀だという声が多い。