新刊『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。今回は、「50代こそキャリアの黄金期」と言える理由を、『EXPERT』の内容を元にお届けします。(構成/ダイヤモンド社・森遥香)

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「50代こそキャリアの黄金期」と言える理由

50代という年齢を迎えると、多くの人が「キャリアの総仕上げ」として捉えがちです。しかし実は、この時期こそがキャリアの黄金期と呼べるのです。
理由はシンプルで、これまで積み重ねてきた経験やスキルが、熟達の域に達しつつあるからです。

「徒弟制度が存在していた何世紀ものあいだ、仕事というものは長い過程を経て習得し、最終的な熟達に至るのが当然とされてきた。熟達すれば得られるものはあるが、それには長い時間がかかったし、近道はなく、すぐ手に入る褒美もなかった。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.44より

とあるように、本来「達人」になるには長い時間が必要でした。50代は、まさにその「長い時間」を経て、熟達に手が届く世代なのです。

スピード社会に逆行する「熟達」の価値

現代社会は、成果を急ぐ風潮が強まっています。

「私たちはゆっくり進むことに耐えられない。結果を急ぎ、すぐに成果を見たがる。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.44より

そのため「何年も修業を重ねて身につける」やり方は軽視されがちです。しかし、だからこそ逆に、深い経験に裏打ちされた熟達が際立つ時代でもあります。大量生産や画一化が進む中で、個の技や判断力が光り、50代の存在は大きな意味を持ちます。

さらに、熟達の仕事は自然に見えてしまうがゆえに軽んじられるリスクもあります。

「スキルが高ければ高いほど、その仕事は自然に見え、簡単にできることのように見えてしまう。自分にもできそうだと錯覚してしまうのだ。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.45より

だからこそ、自分自身がそのスキルを評価する姿勢が求められるのです。

若手の憧れになる

熟達は単なる技術や知識の問題ではありません。若手の憧れになるのも、熟達者の特徴といえます。

「これまで、社会はエキスパートを必要としてきた。これからも必要とし続けると私は信じている。…本気で望めば、自分にもできるかもしれない─そう思わせてくれるのが達人たちだ。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.45より

50代のキャリアは、後輩や若手にとって「こうなりたい」と思わせるモデルになれる時期です。その存在感は、組織や社会全体にポジティブな影響を与えます。

50代はキャリアの終盤ではなく、“黄金期”の始まりなのです。

(本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』に基づいた記事です。)