新刊『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。今回は、「集中し続けられる人」と「すぐ諦めてしまう人」の決定的な違いを、『EXPERT』の内容を元にお届けします。(構成/ダイヤモンド社・森遥香)

エキスパートPhoto: Adobe Stock

経験がつくる“予測のストック”

「集中し続けられる人」と「すぐ諦めてしまう人」の違いは、単なる体力や根性の問題ではありません。その核心には経験量の差があります。

「エキスパートと非エキスパートの違いは経験の量にある。エキスパートは経験が豊富で、それに基づく幅広い期待値のストックがある。要するに、次に起こることをだいたい予測できるということだ。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.97より

つまり、エキスパートは次の展開を「予測」できるため、意識を本当に必要な部分にだけ集中できます。余計な情報処理にエネルギーを奪われず、集中を長時間維持できるのです。
一方、経験の少ない人は常にゼロから分析し、あらゆる感覚を総動員して状況を判断しなければなりません。その分、すぐに疲れてしまいます。

反復が生む集中力の土台

この違いを生み出す鍵は「反復」です。

「この事実は『ひたすら繰り返す』ことの価値を説明している。反復によって増えていく経験や身体感覚によって、脳は、ある出来事の次に何が起こるかを予測できるようになる。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.98より

地道な繰り返しの積み重ねは、一見退屈に思えるかもしれません。しかし、それが「予測の精度」を高め、集中力を支える基盤となります。反復で獲得した知識や感覚は、簡単には失われない“長期資産”として脳に残り続けるのです。

自転車と外科手術に共通すること

わかりやすい例が自転車です。

「自転車に乗るという物理的経験─バランス維持、自転車と身体の連携、重力の感覚─は脳にしっかり焼き付けられるので、いつもと違う自転車に乗るときも、久しぶりに乗るときも、転ばずに乗ることができる。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.98より

言語的な記憶が薄れても、身体が覚えた感覚は残ります。これはスポーツや楽器演奏だけでなく、外科手術のような高度な専門技能にも当てはまります。反復によって培われた“予測力”こそが、余計なエネルギー消費を防ぎ、集中を持続させる秘密なのです。

(本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』に基づいた記事です。)