永守ニデック 最終審判#2Photo:Bloomberg/gettyimages

不適切会計疑惑を巡って第三者委員会の調査が続くニデック。調査の対象は、ニデックの全世界の300を超える拠点(約350法人)に広がっている。ダイヤモンド編集部は、ニデックの事業部門で財務を担当していた元幹部に接触。取材を通じて、グループの創業者・永守重信氏による利益目標必達のプレッシャーの下、事業部門の担当者がさまざまな「工夫」を凝らして会計を処理した実態が浮かび上がってきた。特集『永守ニデック 最終審判』の#2では、不適切会計問題につながる可能性のある会計処理の手口を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

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永守氏の強烈なプレッシャーの下で
銀行出身の“側近”が指示した構図

「わしの会社をつぶす気か!」――。

 2010年代にニデック(当時は日本電産)のグループ事業部門の財務を担当していた元幹部は、土曜日朝の経営会議で、創業者の永守重信会長兼社長(当時。現グローバルグループ代表)に強い言葉で詰め寄られたことを思い出していた。

 ニデックでは、永守氏の「平日の会議は何も生み出さない」という考え方から、経営会議を土曜日に開催する伝統があった。当時の経営会議には、永守氏のほか、全役員、事業部門のCFO(最高財務責任者)、統括部長など約30人が参加していた。この経営会議こそ、ニデックにおける最高意思決定の場として位置付けられていた。

 ダイヤモンド編集部は、この経営会議に参加していた元幹部に接触することができた。

 元幹部によると、この経営会議は月2回の頻度で開催され、その場で最も重要視されていた経営指標が「営業利益率」だった。各事業部門は、前月の決算、当月の進捗状況、翌月の見通しについて数字で報告することが求められた。ここで、永守氏からの納得が得られなければ、容赦なく罵倒を浴びせられたという。

 永守氏による目標達成のプレッシャーは相当なものだった。

 元幹部は「経営会議でつくられた数字は次の会議までに成果を出さなければならなかったが、わずか2週間でできることなど限られる。だから上層部からは『永守会長に納得してもらうために工夫しろ』と指示されていて、数字を“メークアップ”するのが私の仕事だった」と明かす。

「メークアップ」という表現には、複雑な意味が込められている。この元幹部によると、永守氏本人が会計処理の具体的手法に直接指示することはなかったとしつつも、「『工夫』を指示していたのは、永守氏の“側近”である銀行出身幹部」だったという。

 ただし、側近幹部も具体的な会計処理の手口を指示することはなかった。実際の数字をつくり上げるのは、あくまで事業部門の役割だった。前出の元幹部は「売り上げをいかに前倒しで計上できるか、経費をいかに先送りできるかについて、いつも考えていた。どのような会計処理なら問題にならないのかを、他の事業部門の同僚とは常に議論していた」と当時を振り返る。

 少なくとも10年代半ばには、業績数字を高めることを目的に、さまざまな会計処理が常態化していたのは確かなようだ。

 直ちにこれを「不適切会計」と断じることは難しいが、過去にニデックでは、業績向上を追求する過程で、どのような会計処理の「工夫」を凝らしてきたのか。次ページでは、元幹部の証言を手掛かりに、具体的な手口に迫る。