総予測2026Photo by Yoshihisa Wada

2025年3月に高輪ゲートウェイシティを開業させるなど、非鉄道事業の拡大を目指す東日本旅客鉄道(JR東日本)。26年にはICカード「Suica(スイカ)」にコード決済機能を搭載する大型アップデートを計画しており、交通系の少額決済から日常の決済手段への転換を図っている。特集『総予測2026』の本稿では、JR東日本の喜勢陽一社長に成長のドライバーと位置付ける不動産事業の今後の展望に加え、スイカ・金融事業の発展の可能性について話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 田中唯翔)

非鉄道事業の拡大を目指すJR東日本
26年にはスイカの大改革へ

――2025年は、3月に高輪ゲートウェイシティの開業、8月に運賃改定の認可が下り、11月にはSuica(スイカ)のコード決済サービスを発表するなど、変化の大きな一年でした。

 この一年を総括すると、当社が大きく変わっていくスタートの年にできたと思っています。7月に新グループ経営ビジョン「勇翔2034」を発表しました。コンセプトは“「当たり前」を超えていく。”でして、象徴的なのがスイカの機能を大幅にアップグレードすることです。この変革を今後の成長基盤にしていくために、10年間の計画を立てました。

 その一つが顔認証技術を用いたウォークスルー改札で、11月から上越新幹線の長岡駅と新潟駅で実証実験を開始しました。決済の観点では、26年秋にはコード決済サービスを導入し、現在の上限額2万円を大きく超える30万円までの決済が可能になります。

――高輪ゲートウェイシティの開業から半年ほどが経過しました。現時点での手応えを教えてください。

 3月に駅前の街区が開業し、9月に160店舗以上の商業施設から成るニュウマン高輪がオープンしました。10月にはマリオット・インターナショナルの最高級ホテル「JWマリオット・ホテル東京」がオープンし、街が完成しつつあります。

 ニュウマン高輪は、非常に多くの方に利用していただいており、当初の計画を少し上回るぐらいの推移を示しています。オフィスに関しても、約9割が埋まっており、周辺相場の1.4倍の賃料を取れています。駅と街を一体でつくることでオフィスの利便性が高まり、それが高い賃料につながっているとみています。このように非常に手応えのある形で街をスタートさせることができました。

――高輪ゲートウェイシティの増収効果は年間570億円と試算しています。これはいつ達成できるのでしょうか。

 30年には達成できるとみています。そこまでは右肩上がりで業績を伸ばしていくつもりです。内部収益率(IRR)は10%を見込んでおり、これは相当高い水準です。もっとも、元々あの場所は車両基地でしたので、土地代がかかっていません。もしあの土地をゼロから買って再開発していれば、IRRはもっと低かったでしょうね。

――浜松町駅から大井町駅までの東京西南部を「広域品川圏」と称し、このエリアを30年代半ばまでに1000億円規模の収益源にしていく計画です。現在建設費の高騰が続いていますが、こうした要因は成長のリスクになり得ないのでしょうか。

建築資材や人件費の高騰で都心の再開発がストップする事例が相次いでおり、不動産事業の拡大をもくろむJR東日本にとっても、リスクとなり得るのではないか。次ページで喜勢社長は、「広域品川圏」にかける意気込みに加え、M&Aを仕掛ける不動産事業、スイカを中心とした金融事業の将来像などについて明かした。