「ええの、うちで」フミの問いかけが切ない

 外でふたりきりで話すトキと銀二郎。
「銀二郎さんと東京で暮らしたいです。夫婦ふたりでやり直したいです」だけど、「あの人たちを放っておくことはできません」と言うトキ。
「でも……(ほんとの親子じゃないんだから)」という気持ちを見せる銀二郎に、「ほんとの親です」とトキ。

 銀二郎が好きだけれど、松野家の人たちも大事にしたいトキ。
 トキが好きだけれど、松野家で自分をすり減らすことはできない銀二郎。
「一緒に帰れなくてごめん」と銀二郎はやっぱり譲れない。
「ええの」とトキは微笑んで、とぼとぼと松江に帰る。

 洗い場で楽しい笑い声が聞こえてくる。
 勘右衛門と司之介とフミが白ひげをつけてはしゃいでいた。トキがもう帰ってこないと思ってやけになってはしゃいでいたのだろう。
「連れて帰れませんでした」と済まなそうにするトキに猛然と駆け寄る。このとき、岡部たかしがこけそうになったように見える。

「十分じゃひとりで十分じゃ」
「ええの、うちで」とフミがトキに、逆に聞いたセリフが胸にずしりと来た。こんな貧しい暮らしを選んでくれたことがうれしいし娘のことが心配でならないのだと思う。それはフミ自身がこの家の嫁に来たことに思うところがあるからだろう。彼女自身がこの家を選んだからこそ、トキの決断に重く受け止めているに違いない。

 この回のフミの心情を池脇千鶴はこう語っている。
「おトキが東京へ行ったときは、おじじ様がお金を捻出して東京行きを認めたことだし、『これをきっかけに東京で銀二郎さんと幸せになってほしい』と背中を見送りながら納得していました。自分の足で添い遂げる人を見つけて、東京で幸せになるんだったらそれでいいと思っていたんです。でもとにかく心配でならなかったから、松野家へ帰ってきたときはやっぱりうれしかったですね。すごくうれしいんだけれども、おトキが病気をしてないか怪我してないかという心配が先に立ち、映っていたかどうかわかりませんが、着物のほこりを払ったり足を触ったりしています。銀二郎さんとの間に何があって戻ってきたのかは、その後にゆっくり聞いたのではないかと思います」

 トキも牛乳を飲んで、白ひげをつけて、4人であはは、あははと大はしゃぎ。思い詰められてもう何も考えられないように見えて、なかなかの狂気である。主人公一家をこんなふうに描く時代が来たのだなあと思う。

 是枝裕和監督の『万引き家族』(2018年)が世界的に認められて以降、朝ドラでも文化的で健康な最低限の生活を営めない人々に目を向けようと試みているような気はなんとなくしているのだが、いよいよここまで来たかという思いがする。はじめて白ひげをつけたとき、司之介は牛乳を盗んできたようだったし。

 次週予告では蛇と蛙が、「いよいよ来るのねえ」「おトキちゃんの運命を変えるあの人よ」とはしゃいでいた。貧乏から脱出できるのか。

「英国式ブレックファースト」って何かね?見知らぬ朝食がトキ(高石あかり)の“望郷の念”を募らせた〈ばけばけ第20回〉