《この「望」って書いている人は「否」に近いと思うんですよ。気持ちとしては。やはり当時の雰囲気として「否」とは書きづらい、かといって「熱望」ではないから「望」と小さい字で書いたっていう人が、実際いましたから。
「否」だと汲み取ってほしいという思いもあるんでしょうけど。こういう書類にまとめられたら一緒ですよね。小さい字で「熱望」と書いたという人もいるかもしれないけども、こうやって清書されると一緒になっちゃう。みんな同じ「熱望」になるわけですね。
当時の人たちと話していると「卑怯者と呼ばれたくない」「人に後ろ指をさされたくない」という意識が今の僕らが想像するよりもずっと強いんですよね。だから仲間が志願した、「熱望」と書いた、というと全員そうなっちゃう。
男らしさの強制っていうかですね、今風に言えば。そういう意識があったと思いますよね。》
「否」だと汲み取ってほしいという思いもあるんでしょうけど。こういう書類にまとめられたら一緒ですよね。小さい字で「熱望」と書いたという人もいるかもしれないけども、こうやって清書されると一緒になっちゃう。みんな同じ「熱望」になるわけですね。
当時の人たちと話していると「卑怯者と呼ばれたくない」「人に後ろ指をさされたくない」という意識が今の僕らが想像するよりもずっと強いんですよね。だから仲間が志願した、「熱望」と書いた、というと全員そうなっちゃう。
男らしさの強制っていうかですね、今風に言えば。そういう意識があったと思いますよね。》
三択と戦時中の雰囲気が
「望」の文字を書かせた
神立さんの説明を聞き、海軍が意図してか意図せずかは分からないが、この志願調査が実に巧妙な仕組みになっていることに改めて気づく。
「望」か「否」かだけなら、より多くの隊員が「否」としただろう。だがそこに「熱望」があることによって、「望」と書いておけば消極的な姿勢を汲み取って選ばれないのではないか、という気持ちが働く余地が生まれる。「否」と書かなかったことで、後ろ指をさされず、メンツも保てる。
一方、海軍の側からすると、形の上では、「望」はあくまで本人が「志願」したと受け取ることができた。
元山空(編集部注/元山海軍航空隊。日本海軍の部隊の1つ)の資料から選抜の基準が見えてこないということについても、神立さんに相談してみた。「熱望」とした者の多くが選ばれない一方で、「望」とした者が多く選ばれていることについて、彼は即座に、背後にある海軍省の思惑を推察してくれた。







