現在の生成系AI、たとえばChatGPTのような大規模言語モデル(LLM:Large Language Models)では、およそ1兆個もの結合(パラメーター)があるとされています。これは人間の脳の100分の1から1000分の1程度の規模です。

 今の生成系AIが、昔のAIとは比べものにならないほど高度な学習や表現ができるようになっているのも、この「結合数の多さ」がもたらす質的な変化、すなわち相転移によると言っていいでしょう。

進化ではなく発達を選んだ
人類の脳の歴史

 私がカオス(編集部注/わずかな初期条件の違いが、最終的に大きな違いを生む現象を解き明かす数学・物理学の理論)の研究を始めた理由のひとつには、生命の進化の秘密に迫りたいということもあり、進化についても、かねてより気になっていることがあります。

 それは、人類の脳がある時点で「進化」をやめ、「発達」を選んだことです。

 たとえば古代ギリシャ人の脳よりも、現代人の脳の方が「進化」しているかというと、特に目立った進化はしていないでしょう。でも明らかに知識が増え技術力が向上したという意味で知的レベルは上がっています。

 脳そのものは進化せずに、新しい技術を生み出すことで知能が発達し、「できること」がどんどん増えているのです。

 動物の脳は、身体が大きくなるごとに大きくなる、というように線形に変化します。

 身体のサイズに比例して脳のサイズも大きくなる。脳が大きくなれば、それだけニューロンの数もつながりも多くなりますから、基本的には身体が大きくなるほどに知能も高くなります。

 となると、身体の拡大が止まった時点で脳のサイズは確定となり、知能も頭打ちになるはずなのですが、人間は、そうなっていません。

 人間だけが身体の大きさに比して突出して脳が大きくなりました。しかし、その後、さらに大きくなったわけではなく、大きさの進化は止まったようにみえます。

外部との接触によって
脳が発達する

 古来、人間は道具をつくって自分の身体機能や知的機能を拡張させてきました。