それが人間の脳にも当てはまるのではないかと、私は考えているわけです。

脳の中で相転移が起きて
心が生み出された

 図8に示したような、水の形状変化も相転移の身近な事例のひとつです。

図8 相転移の身近な事例同書より転載 拡大画像表示

 私たちの脳には約1000億個ものニューロン(編集部注/神経細胞。電気信号を発生・伝達して情報処理を行う)があります。

 しかもひとつのニューロンは、およそ1万個もの他のニューロンとつながっているとされています。

 つまり、脳全体では100兆~1000兆という、とてつもない数の「つながり」があるのです。

 そこで相転移です。先ほども説明しましたが、相転移とは、非常に多くの原子、分子からなる物質の全体としての性質が臨界点を超えると急激に変化する現象です。

 ならば、脳のニューロンの数や結びつきが一定数以上あることで、脳も何か「別のもの」に変化するとは考えられないか。

 たとえば、ニューロンの数や結びつきが少ない動物の脳では見られないような高度な認知や創造的な働きが、人間の脳で突如として現れた。

 まさに脳の中で相転移が起きたことで、質的にガラリと変わった脳が心を創発したと考えることもできるのではないでしょうか。

 単なる数といっても侮れません。数が多いという、ただそれだけの条件で、あるものがまったく質の違うものに変化する。

 そこに、動物とは違う人間特有の心を人間の脳が生み出すようになったひとつの要因があるように私には思えるのです。

 ちなみに、この考え方はAIにも応用できると思います。