では改めて、心とは何か。各脳領域で電気信号を発しているニューロンたちがうまくコーディネートされ、相互に連動している。こうして先に述べたような大目的が現実に表現されている状態を、私たちは心と呼んでいるのではないかと思うわけです。

脳の設計図を描くのは
外部の誰かではなく脳自身

 さてここで、前項で保留にしていた脳の設計図について、考えてみましょう。

 部品同士が連動しないことには何ひとつ機能しないという意味で、自転車を引き合いに出して「つながりの中で機能する脳」を説明してきましたが、自転車と脳とではひとつ大きな違いがあります。

 自転車の場合、設計図は人間が描きます。その設計図に従って必要な機能を帯びた部品をつくり、組み立て、部品同士の相互作用により駆動する自転車というシステムをつくります。

 しかし脳というシステムは、外部的に部品をつくって組み合わせたものではありません。システム内で機能が分化し、それぞれが相互作用の中で機能するようになったのが脳です。

 つまり脳の場合は、外部の誰かではなくシステム自身が己の部品をつくっている。

 そんなことがいかにして起こるのかというのが、要素還元論(編集部注/複雑なものを分解し、各要素を個別に理解することで、全体を理解できると考える方法)が通用しない複雑系(編集部注/数多くの要素で構成され、それぞれの要素が相互かつ複雑に絡み合った系またはシステム)の典型的な問題なのです。

 脳の機能分化は自身の中で起こるといっても、自然発生的にそんなことが起こるとは考えづらい。システム内で機能分化し、相互作用しながら機能するという絶え間ない状態変化が起こるのは、「エントロピーの増大」(編集部注/物質や熱は、外部から力を加えない限り、自然に乱雑で無秩序な状態へと向かう)という法則から外れて無秩序から秩序へと向かうということです。

 それには何らかの働きかけ、いわば「ゴール設定」がなくてはいけないはずです。