人類は制約の中で
進化を遂げてきた
生命というのは、常にさまざまな拘束条件(ルール、制約)のもとで進化してきました。エーリッヒ・フロム(編集部注/哲学者)の『自由からの逃走』(注1)でも指摘されているように、人は自由を手にすると、かえってその自由度の高さに耐えきれなくなり、権威や全体主義に惹かれるようになってしまう。
自由だとむしろ何もできないというのは生命自体も同様で、拘束条件があってこそ新しい機能が生まれたり、ある機能が高まったりするのです。
現に幹細胞に物理的に振動を与えたところ、筋肉をつくる細胞に分化したという実験結果も報告されています。未分化なものに「適切な」拘束をかけると分化するというのは、おそらく生命において普遍的な反応なのでしょう。
それは脳も例外ではないというわけです。
では脳が機能分化する際の拘束条件とは何か。そこはまだよく分かっていないのです
が、たとえば外部から入ってくる情報の処理コストを最小にして、ネットワークの中に伝えていく情報を最大化するというのは確実にあるでしょう。
脳にはさまざまな機能がありますが、脳がどうできたのかというと、第一の目的は「情報を溜めること」だったはずです。
そんな脳の機能分化が起こる数学的な構造は、ある数理シミュレーションで観測できました。
脳を機能分化させる
2つの拘束条件とは
問題は、そもそも実際の脳では何が拘束条件となって機能分化が起こるのか、ということです。
脳はいったいどんな拘束条件を受けることで機能分化に向かうのか。それには大きく2つ考えられます。
ひとつは進化的に決定づけられてきた「遺伝子の発現」という拘束(淘汰圧)です。脈々と続いてきた人類の歴史上、最良の選択肢をとってきたものだけが生き残ってきた。
そうして受け継いできた遺伝子が発現することで脳の機能分化が起こるわけです。
そしてもうひとつは、外部から与えられる拘束条件です。自身の頭蓋骨という物理的な要素も拘束条件ですし、置かれている環境や周囲の人たちの「普遍心」との接触も拘束条件です。







