行方がわからなくなってから5日後の30日午前11時過ぎに、田代平の藪の中からクマに食害されたとみられる性別不明の遺体が発見される。右手人差し指が変形していたという身体的特徴から、この遺体はCだと断定された。
実は、26日にもう1人、クマと闘って生還した男性I(58歳)がいる。Cの一件を知らず、同氏が行方不明となった田代平の同地点の笹藪に午前6時45分頃に入山し、クマと遭遇。
両者の距離わずか1mでにらみ合いとなり、大型のカッターナイフで目を狙って切りつけたが、素早くかわされた。次に、根元を切り取って鋭く尖らせた笹を投げつけると、クマの右目下にヒットし逃げて行ったという。男性はこのクマに対して「体長90cmほどで、額の左側に古傷があった」と証言している。

すべての犠牲者に
食害の跡があった
その後、4人目の犠牲者が出た。6月10日午前10時過ぎ、田代平にて性別不明の遺体が発見された。タケノコを採るため7日に入山し、行方不明となっていた十和田市在住のD(74歳)だった。先の3人同様、内臓などが食害された状態で、枯葉や土が遺体を覆うようにかけられていたという。
同日午後2時頃、遺体発見現場から20m離れた笹藪で、加害グマと見られる雌が射殺されている。体長約130cm、体重70kgほどで、胃上部に人肉と頭髪が詰まっていたことから、D殺害への関与が確実視され、複数の研究者たちは「4人は同じクマに襲われたと考えるのが自然だ」と話した。
しかしこの雌グマ、右鼻腔上部と鼻梁、右前頭部に傷があり、26日に男性を襲ったクマと特徴が一致しない。果たして一連の人身事故は、本当にこの雌グマ1頭によるものなのだろうか――。
複数のクマが動き出し
新たな悲劇が再び始まる
タケノコ採りの季節も終わり、雌グマの射殺によって一連の事件が収束したかに思われていた。しかし同年の6月下旬、鹿角市在住のE(54歳)がクマに襲われたという一報が入る。
Dを発見した現場から南に約9kmの大湯大清水の山林で「母子3頭のクマ」に遭遇し、逃げようとしたところを母グマに襲われ、全治2週間の怪我を負った。そう、事件はまだ終わっていなかったのである。