中国系SNSを使って中国人同士で
紹介・転売される日本の不動産
近年、さらに問題視されているのが、中国系投資家によるSNS上での不動産取引である。
ウェイボーや小紅書といった中国系SNSでは、日本の不動産を「紹介・転売」する投稿が増加している。
日本の法律では、個人が不動産業者を介さずに物件を売買することが可能である。実際にどれくらいの数が行われているのかはわからないが、いずれにしても、中国語SNS内で完結する売買も成立しうるのは確かだ。
つまり、いま空き家になっている中国人投資家所有の都心マンションは、次に中国人が購入する可能性が高いのである。国や都や区の税金を投入して整備した再開発地区のマンションが、中国人投資家にまとめ買いされ、中国人に売られるということに、違和感や理不尽さを覚えるのは私だけではないだろう。
このような流通経路では、所有者情報や利用目的が不透明になりやすく、再開発地区のように税金が投入されたマンションであっても、結果的に外国資本の私的投資物件として流通してしまう。現行制度はグローバル資金のスピードに追いついていない。
SNS時代の「越境取引」は、行政の監視の枠を超えて動いており、実態を把握することさえ難しくなっている。
空き家増加で懸念される都心の空洞化
「居住する人が報われる仕組み」が必要
行政としては、住宅供給を増やせば人口も増えるという発想が基本である。だが、供給の中身が「不在の所有者」中心であれば、どれだけ再開発しても地域社会は成長しない。
千代田区ではここ数年、学校・保育園・医療施設の整備に多額の税金を投入している。しかし、実際に住む家庭が増えなければ、その投資は空回りだ。地方が過疎化し、都心の空洞化が拡大したら、日本の活力はいったいどこが担うというのか。
さらに、空室でも固定資産税は発生するため、一見すると区の税収は増える。だが、住民がいなければ商店街も医療機関も需要を失い、結果的に経済の循環は止まる。
この構造は、地方創生の議論で繰り返されてきた“限界集落化”と本質的に同じであるが、言うまでもなく、これは東京のど真ん中の話だ。
千代田区が不動産協会に要請した「原則5年間の転売禁止・複数戸購入の禁止」は、地方自治体としては画期的な一歩だ。ただし、これは法的拘束力を持たない「要請」にとどまる。現行法では、自治体が国籍や投資目的を理由に取引を制限することはできない。
このため、根本的な対応には国レベルの制度改革が必要だ。たとえば以下のような方向性が考えられる。
・外国資本による不動産取引の事前届出制度(カナダ・ニュージーランド型)
・短期転売を制限するキャピタルゲイン課税強化(イギリスの「スタンピング税」方式)
・所有者情報の公開義務化と管理組合への共有
・住宅空室率に応じた課税制度(シンガポールの非居住課税モデル)
これらは単なる外国人規制ではない。「居住実態のある人が報われる仕組み」をつくるための制度整備である。
さらに、外国人住民とのトラブルが発生した際に、警察・行政・管理組合が情報を共有できる通報体制を整えることも不可欠だ。現場での初動が遅れれば、住民不安が拡大し、社会的分断を生む。
国レベルでは、国交省や財務省による「外国資本取引の届出義務化」や「登記情報の透明化」に向けた議論が進んでいるものの、実効性のある制度にするためには、自治体・国・不動産業界の三者協力が欠かせないのである。
(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)