所有者の7割が居住せず
「空き家」のまま保有する高級物件

 相談を受けているとき、その方から別の気になる話が出た。それは「マンションにあまり人が住んでいる感じがしない」というものだった。自分のいるフロアでも、確実に人が住んでいると感じるのは3割ほどで、残りの部屋は人が住んでいる感じがしないという。

 2025年夏、千代田区が区内の新築分譲マンションを対象に実態調査を行った。この調査は千代田区の外郭組織が区内マンションについて定期的に調査してまとめているもので、これからまとめられる報告のための調査だった。

 その結果、ある高級物件では所有者の約7割が実際には居住していないという衝撃の事実が判明した。まさに相談者が感じたとおりの結果だったのである。それ以外の築浅な高級分譲マンションでも居住者が5割を下回るところがあるという。

 千代田区はこの結果を受けて、不動産協会に対し「区が関与する再開発マンションでは、原則5年間の転売禁止・複数戸購入の禁止を設けるよう要請」した。都心の自治体としては異例の踏み込んだ要請だ。

 数億円もするマンションを購入しておきながら、住民票を置かず、賃貸にも出さずに、空き家のまま保有しているというのは通常では考えられない。何らかの事情があって空き家のままというのはありうるが、それにしても7割は明らかに異常だ。

 なぜ新築分譲マンションの空き家が増えているのか。それは、高額マンションを投資用にまとめて買い、値上がりしたら一気に転売するつもりだからだ。賃貸に回してしまうと、思ったタイミングで売り出すことができない。

 その背景には、超低金利と円安がある。海外から見れば、日本の不動産は割安で、政治も安定している。現在はかなりの超円安水準にあり、さらに極端に安く振れることは考えにくい。そのため、日本円建て資産は安全資産とみなされ、実需を伴わない“保管目的”の購入が増えている。

 いま都心の高級マンションはグローバルな投資対象となっており、すでに「ファミリー向けマンション」という概念では語れなくなっているのである。