こうして、センチュリーのブランド化を含めた5ブランド体制の再構築という全体像が明らかになったが、改めて、トヨタの方向性については、豊田会長がまだまだ主導するという体制も明確になった。

 豊田会長については、最近興味深い話題があった。今回の新プロジェクトが発表される直前の9月4日に『上司 豊田章男』という単行本がPHP研究所から発刊されたのだ。筆者はトヨタの現役社員である藤井英樹フェロー。サブタイトルは「トヨタらしさを取り戻す闘い 5012日の全記録」だ。

 藤井氏は、09年の豊田氏の社長就任とともに広報担当の業務秘書になり、約14年間、直属の上司と部下として身近に「豊田章男」と接し、「トヨタイムズ」の立ち上げ時に初代編集長となった人物だ。豊田氏の社長業への想いや行動、その真の姿を、実に544ページの長編で紡いでいる。藤井氏は、業務秘書として「豊田さんの想いを言語化し『メッセージ』にすることが私の役割となった。豊田さんは私とのメッセージづくりを『共同作業』という。5012日に及ぶ闘いのメッセージをお読みいただければ」と前書きで述べている。

 実は、筆者はこの藤井氏を若手広報マンの頃からよく知っており、今回この本が上梓(じょうし)されることを聞いて祝いメールを送った間柄だ。本の帯には「フェローという言葉には仲間という意味があるんだね。豊田章男の本当の姿を言葉にして伝えようといつも隣で黒鉛筆を持っている。部下ではなく仲間。それが私にとっての藤井君です」と豊田氏が添えている。

 今でこそ、豊田氏は「トヨタを世界トップのメーカーとして確立させた経営者」という高い評価を得ているが、トヨタ創業家への「大政奉還」とされた09年の社長就任時は、赤字転落からの「嵐の中の船出」だった。

 この本では、創業家の御曹司である豊田氏ならではの孤独、苦闘のほか、広報担当業務秘書としての筆者の苦悩や最も身近に豊田氏と接してきたことでの成長も描かれており、その中で豊田氏の本質が見事に浮き彫りにされている。

 余談だが、筆者は、かつてトヨタのGazoo(ガズー)事業部主査の肩書だった時代の豊田氏にインタビューしたことがある。Gazoo事業部は、当時のトヨタのインターネットポータルサイトの運営などを手掛けており、豊田氏が自ら創設した部署だった。ちなみに現在ブランド名にもなっているGRは、ガズーレーシングの略で豊田会長が創設したGazooにつながる。